受験生の子どもを持つ親ならだれでも、試験で実力を最大に発揮できるよう、サポートをしてあげたいと考えるものではないでしょうか。親ができる大切なサポートが、毎日の食事です。受験準備期間から、試験日当日までの間に体調を整えて集中力や記憶力をアップさせる理想の“受験メシ”について、受験フードマイスターの講師を務める管理栄養士の椎橋聡子さんにお話を伺いました。
受験準備期間に食事や生活の基本を整えることが、パフォーマンスアップの鍵
私たちの体は食べたもので作られていますが、食べたものが吸収され、体が作られるまでには当然ながら時間がかかります。受験直前になって慌てて集中力や記憶力アップなどに効果があるとされる栄養素を摂り入れたり、食習慣を見直したりしても、すぐに効果は出ません。まずは土台をしっかり作り、その上で強化したい栄養素を摂ることで初めて効果が期待できます。受験期に入る前に基本的な生活習慣を整えることから始めましょう。
① 生活リズムを整える(早寝早起き)
② 栄養バランスのとれた食事(いろいろなものを食べられるようになる)
③ 朝食を抜かないで1日3回規則正しく食べる
特に食事の摂り方で大切なのが「よく噛むこと」です。咀嚼をしっかりすることで、脳に血流がいき、神経活動が活発になると言われていますが、最近はファストフードなど柔らかくて食べやすい食べ物が多く 、よく噛まなくても飲み込めてしまうため、咀嚼回数が減少傾向にあります。食事に噛み応えのある根菜類などを取り入れるほか、1回に口に入れる量を少量にして噛むことを意識して食べる 、食材を大きく切ったり、いつもより硬めにゆでたりするだけでも咀嚼回数はアップします。受験前は机に向かう時間が長くなり、運動量が減ってしまうことで体重増加を気にする子どもも増えますが、よく噛むことでドカ食いの防止にもなり、肥満予防の効果もあります。
もう一つ大切にしてほしいのが「朝食」です。
朝食を食べるメリット
① 朝食を食べる子どものほうが成績優秀
朝食を毎日食べている子どもの方が食べていない子どもよりも成績が良いことはさまざまな研究で明らかになっています。人間の体は寝ている間にもエネルギーを消費していて、朝起きたときには、車で例えるとガソリン不足の状態です。朝食で栄養補給をしないと、脳や体に必要な栄養が行き渡らないためエンジンがかからず、集中力が欠けたり、眠くなったりするなどして、テストで本来持っている実力を発揮できなかったり、効率の良い学習ができなくなってしまいます。
② 血糖値の安定供給
朝食を摂らずに昼にまとめて食べると、血糖値は急激に上昇しやすく、体への負担が大きくなります。血糖値の乱れは眠気や集中力の低下、情緒不安定、イライラ、頭痛などの原因になり、午後の授業のパフォーマンス低下になりかねません。
③ 1日に必要な栄養素を無理なく摂取できる
受験期の子どもは育ちざかりです。昼と夜だけの1日2回の食事では必要な栄養素を補えず、体にも脳にも十分な栄養が送られません。受験期には特に重要な「やる気」や「集中力」といったメンタル面を整えるためにも、十分な栄養素が必要になるため、朝食も含めた1日3回の食事でしっかりと必要な栄養素を補給しましょう。
【受験2週間前】 集中力アップ&リラックス効果のある食べ物や飲み物を
受験1か月前くらいまでに食事や生活習慣の基本を整えたら、次は栄養の質を高めていきましょう。より受験勉強に専念したい2週間前に集中力を高める効果が期待できる栄養素と代表的な食材を紹介します。
<集中力・記憶力を高める効果が期待できる栄養素>
受験2週間くらい前からは、だんだんと試験当日が近づいてきて子どもも親もナーバスになりがちです。試験当日に万全の体調で実力を最大に発揮できるようにするためにも、不安をできるだけ取り除きリラックスできるような環境を整えてあげましょう。
冬の寒い日のリラックスなら、温かい飲み物がおすすめ。ミルクココアやスープ、ホットジンジャーなどで、受験勉強の合間にホッとする時間を。緑茶などに含まれるテアニンもリラックス効果があると言われています。カフェインも含みますので飲みすぎや飲む時間にも気をつけましょう。
【受験1週間前】
体調を崩してしまったら無理な食事は禁物
いよいよ受験本番が目の前に近づいてきて緊張すると、胃液の分泌が減り、体を守るバリアの力が弱くなることで、いつもと同じものを食べてもお腹が痛くなるなど、胃腸の不調が出やすい時期。この時期に最優先したいのは、とにかくコンディションを崩さないことです。子どもの様子がいつもと変わらないように見えていても、心も体もデリケートな状態になっていることを覚えておきましょう。
受験直前や当日は、お腹の調子を崩さないためにも「生もの」「冷たいもの」「刺激の強いもの」はできるだけ避けましょう。 特に生ものは食中毒予防の観点からも要注意です。食中毒が起きるのは夏場だけでなく、1年中気を付ける必要があります。今年は新型コロナウイルス感染症対策でノロウイルスの発生は少ないとも言われていますが油断は禁物。食事作りの際、衛生管理はいつも以上にしっかりと。食品はなるべく新鮮なものを選び、できるだけ加熱したものを食べましょう。
十分な栄養や睡眠を摂っていても、体調を崩してしまうことは誰にでもあります。熱があるときや、胃腸炎になってしまったときはまずはしっかり水分補給を。受験前に体調を崩してしまうと、子どもだけでなく親も焦ってしまい、とにかく栄養のあるものを食べさせようとしてしまいがちです。でも、まずは体調を元に戻すことが最優先。焦りやストレスなどの精神的な負担も軽減するために、無理に食べさせたりせず、本人が食べたいもの、食べられるものを少しずつ出してあげると良いでしょう。
風邪をひいてしまったとき回復を助けてくれるビタミンAとビタミンCは、風邪の予防にも効果があります。
<ビタミンAが多く含まれる食品>
ほうれん草やにんじんなどの緑黄色野菜全般
豚レバー、鶏レバーなどの肉類
うなぎ
卵
チーズ
<ビタミンCが多く含まれる食品>
じゃがいも、さつまいもなどのイモ類
ブロッコリー、キャベツ、パプリカなどの野菜
キウイフルーツ、イチゴ、みかんなどの果物
果物はおやつがわりにそのまま食べるのも良いですし、フルーツサンドにしたり、ヨーグルトに入れたりして、最低でも1日に1回は摂りましょう。
【受験前日】
お腹に負担がかからない食事作りを目指しましょう
試験日前日の食事は、栄養素がバランス良く摂れる「一汁三菜」の定食スタイルがおすすめ です。でも緊張をして食欲があまりない……というときに食卓にお皿の数が多いだけで精神的に負担になることも。そんなときはご飯とおかず・野菜が一皿で取れるどんぶりメニューにすると、お皿の数が減り、心理的な負担も軽減できます。
脂質の摂りすぎは胃腸の大きな負担になりますから、揚げ物などの消化しにくいものは避けましょう。 それでも子どもが好きな揚げものを食べたいと言うときは、脂身の少ない肉を選び、揚げ焼きにするなど調理法を工夫 して、できる限りお腹に負担がかからない食事作りを目指しましょう。
揚げ物に限らず消化しにくいものを食べてしまうと、胃腸にばかり血液がいってしまいます。試験中にしっかり脳に血液を送るためにも、前日は消化に良い胃腸への負担が少ないものを食べて、早めに就寝するようにしてください。
【受験当日】
3時間前までに消化に良い朝食を必ず摂る
試験当日は、3時間前を目安に朝食を済ませましょう。 メニューは簡単なものでも構いませんから、温かくて消化に良い、できるだけ胃腸に負担のかからないものを。例えばご飯はいつもより柔らかく炊いたり、おじやにするのも良いですし、野菜と一緒に柔らかく煮込んだうどんやお雑煮にしても。おかずは揚げたり炒めたりと油を使うものよりは、脂質の少ない煮物の方が良いと思います。どうしても緊張して食欲がないときは、何も食べずに試験に臨むよりは、ゼリータイプの栄養補助食品などでも構いませんから、何か食べられるものでエネルギーを補給するようにしましょう。
試験当日には手作り弁当を持たせたくなるのが親心ではありますが、衛生管理は十分に気を付けて。冬場で寒いからといって温かいお弁当を持たせるのではなく、必ずきちんと冷ましたお弁当を持たせます。汁けの多いおかずや生野菜は避け、おにぎりを握るときは素手ではなく、ラップを使うとより安心です。 試験場所までが遠かったりして、食べるまで時間がかかる場合は手作り弁当にこだわらず、無理をしないこと。食中毒になるリスクを避けて、コンビニなどを利用するほうが安全な場合もあります。状況にあわせてコンビニを上手に活用しましょう。
子どもが自分で昼食を選ばないといけない場合は、「単品食いはしない」ようにアドバイスを。おにぎりやサンドイッチなどの主食、卵焼きなどのおかず、野菜サラダというように、炭水化物・たんぱく質・ビタミン・ミネラルが摂れる組み合わせが◎。野菜や海藻類にはビタミン・ミネラルだけでなく血糖値の急激な上昇を抑えてくれる食物繊維も含まれていて、食後の眠気防止にも役立ちます。 ハム・卵・野菜が入っているサンドイッチやおにぎりであればひじきご飯やわかめご飯、五目ご飯など複数の具材が入っているものを選ぶと良いでしょう。
受験前に食事で余計なストレスを与えないよう提案型のコミュニケーションを!
子どもが受験勉強を頑張っている姿を見ていると、親ならできる限りのことをしてあげたいと思うものです。だからといって「脳に良いからあれを食べなさい」などと言いすぎてしまうと、子どもがストレスに感じることも。受験前に余計なストレスを与えないように、コミュニケーション方法にも工夫があると良いですね。例えば「風邪を引かないためにこれを食べなさい」と命令口調ではなく、提案型で伝えるのがおすすめです。「風邪予防には〇〇が良いみたいだから食べてない?」「これを食べると集中力がアップするから有名な〇〇さんも食べているらしいよ」 などと提案して、子どもが自分で食べたいと思うようなコミュニケーションを目指しましょう。
監修者プロフィール
椎橋聡子(しいばしさとこ)管理栄養士/健康運動指導士
受験フードマイスター協会講師。株式会社FoodSmile代表取締役として飲食店向けのメニュー提案、企業への販売促進、コンテンツ作成、カロリー計算サイト運営等食・健康分野の社会問題解決のための事業を展開している。