中高生の時期は、子どもが体も心も大きく成長する時期。健康な体を作り、すこやかな心を育むためには、毎日のバランスの取れた食事が必要不可欠です。特に目標をもってスポーツに取り組む中高生を応援する親にとっては、子どもの体の状態や必要な栄養など気になることが多いもの。そこでスポーツを頑張る中高生の子を持つ親が知っておきたい栄養や食事について、公認スポーツ栄養士で管理栄養士の小嶋理恵子さんにお話を伺いました。
中高生の体と成長
必要な栄養をしっかりと摂ることが大切な時期
アスリートの中でも「ジュニア」と定義されているのは「身長が伸びている間」、20歳くらいまでが対象です。「中高生」はこのカテゴリに含まれますが、体の発達段階が大きく異なるため、「中学生」と「高校生」でも体の状態は違うことをまずは覚えておきましょう。
人間は生まれたとき、体の約7~8割が水分。成人に達するときにはその割合が約6割となり、そのかわり脂肪や筋肉の割合が増加します。それを「成長」と呼ぶのですが、成長には順番があり、小学校入学頃までの間に生命を維持するために必要な神経やリンパ系が先に発達します。
そのあとに「骨=身長」や「筋肉=体重」、そして「脂肪=生殖器系」が発達をしていきますが、身長の急激な伸びのことを「成長スパート」と呼んでいて、この時期には骨や筋肉を作るさまざまな栄養素がたっぷりと必要になります。
「成長スパート」には男女差、そして個人差があり、男子は11歳、女子は9歳頃から始まって約4年間に及ぶとされていますが、成長スパートの開始年齢は人によって4~5歳ほど異なります。
<成長スパートが最大になるときの平均値>
- ・男子の場合 13.05歳/約10~12cm
- ・女子の場合 11.06歳/約8cm
つまり「中学生」はこの成長スパートの真っ最中で、休養と運動、そしてなによりも「栄養」が最も重要であるとされています。筋肉や脂肪は成長スパートのあとにつけることもできますが、身長は成長スパートを逃すとあとから大きく伸びるということがありません。また女子の場合、過度に脂肪が不足した状態だと生殖器系の発達に大きな影響を及ぼすことも。スポーツをしている子どもでも、そうでない子どもでも、この時期にしっかりと栄養を摂ることは共通して大切なことなのです。
一方、高校生は3年間でほぼ成人に近い状態になっていきます。ただし身長の伸びがほぼ止まったからといって、すぐに成人の体になるわけではありません。そこから内臓や生殖器などの成熟が始まり、ようやく大人の体へと変わっていきます。ですから高校生の体もまだ「ジュニア」であり、大人以上に栄養や休養、そして運動が大切であることを覚えておきましょう。
1日に必要なカロリーは3,000kcal!?
中高生に大切なのはエネルギー不足を起こさないこと
中高生の子どもにとって、栄養を十分に摂り、しっかりと休養することと並んで、体も心も大きく成長するためには運動もとても大切です。特に部活動などスポーツを頑張る子どもにとっては、試合や大会でベストなパフォーマンスを発揮することが大きな目標になります。そのためにはそれが実現できる体づくりが基本。私たちの体は毎日の食事で摂る栄養をもとに作られていますから、スポーツで結果を残すためには、いかに食事が大切かわかってもらえると思います。
部活動などで運動をしていない子どもの場合、必要なのは「発育・発達のためのエネルギー」と「生きるため、生活のためのエネルギー」になります。ここに運動をしている子どもの場合は「運動で使うエネルギー」の分も摂取が必要となるわけですが、食べられる量には限界があります。中高生であれば、まずは「発育・発達のためのエネルギー」と「生きるため、生活のためのエネルギー」が最も大切。「運動で使うエネルギー」の優先順位が高くなってしまうと、成長スパートの時期に身長の伸びを妨げてしまうことにもなります。運動量が増えすぎないよう調整したり、食事でできる限り補うことが大切です。
1日の必要栄養量(日本人の食事摂取基準2020年版より)(注1)
(単位:kcal)
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男子 |
女子 |
オフ期 |
トレーニング期 |
オフ期 |
トレーニング期 |
12~14歳 |
2,600 |
2,900 |
2,400 |
2,700 |
15~17歳 |
2,800 |
3,150 |
2,300 |
2,550 |
- ※オフ期~部活動などが休みで座位中心、通学や軽いスポーツ等を行うとき
- ※トレーニング期~部活動などで活発に運動を行うとき
人間は1回の食事で食べられる量に限界があります。栄養が足りないと、授業中に眠くなったり集中できなくなったりする原因にもなるので、特に朝食抜きは絶対にやめましょう。朝ごはんには体内時計を整え、「体のスイッチ」を入れてくれる重要な役割があり、中学生を対象とした調査では、朝食を食べている方が体力合計点や正答率が高い傾向が見られるという結果も。(注2)大人になってからの健康な体づくりのためにも、この時期から朝ごはんをしっかりと摂る食生活を身につけることが大切です。
ただし、せっかく食べてもトーストや具なしのおにぎりだけだと、食べていないときとさほど状態が変わらないというデータが。「炭水化物+おかず(たんぱく質、ビタミンなど)」のセットで摂ることがとても重要です。たとえばトーストならハムやチーズをのせたり野菜サンドにするなど、手軽なものでいいので必ずおかずを組み合わせてください。ありがちなのが朝食に「菓子パンだけ」のパターン。一緒に野菜ジュースや牛乳を飲むだけでも違いますから、「炭水化物」だけにならないように配慮しましょう。
「5つのお皿」を参考にスポーツを頑張る中高生意識して摂りたい栄養素
中学生は「カルシウム・鉄分」高校生は「糖質・たんぱく質」
国際オリンピック委員会(IOC)では「アスリートに特別な食事や食品はいらない」と明言しています。ですからスポーツを頑張る子どもがいる家庭でも、特別な食事作りやサプリメントなどは不要。とはいえ、毎日の食事作りに悩む親は多いと思います。そんなときに献立作りの参考にしてほしいのが「5つのお皿」です。
<5つのお皿>
- ① 主食のお皿~ご飯・パン・麺などの糖質
- ② 主菜のお皿~肉・魚・卵・納豆などたんぱく質のおかず
- ③ 副菜のお皿~野菜を中心としたビタミン・ミネラルを含むおかず
- ④ 乳製品のお皿
- ⑤ 果物のお皿
あらかじめ1週間のバランスの取れた献立を決めて、その通りに実行することはなかなか難しいことです。たとえば朝食が卵料理、昼の給食が肉料理の日であれば、夜は魚料理といったように、食材が重ならないようにするとバランスの取れた献立が作りやすくなります。すべてを手作りする必要もありませんから、冷凍食品や100%のフルーツジュースなどを上手に取り入れて、「5つのお皿」が揃うような献立を意識してほしいと思います。
◎特に「中学生」の時期に意識して摂りたい栄養素
- ・カルシウム
カルシウムの蓄積量は成長期にピークを迎えます。ここでしっかり摂取しなければ、大人になってから蓄積量を増やすことができません。カルシウムは骨を作るだけではく、脳と筋肉をつなぐ神経系の伝達や筋肉の収縮などにも利用されます。魚介類や卵、きのこ類などに含まれるカルシウムの吸収に必要なビタミンDも一緒に摂取しましょう。
- ・鉄分
体が大きくなるとその分血液の循環量も増えます。だから成長期には血液のもととなる鉄分が不足しがち。エネルギー代謝や免疫機能、中枢神経系にも関与し、あまり知られていませんが、運動能力に最も影響を与える栄養素と言われています。成長期には女子だけでなく男子も貧血になりがち。積極的に摂り入れましょう。
◎特に「高校生」の時期に意識して摂りたい栄養素
- ・糖質・たんぱく質
筋肉量が増え始めてくる時期。体をつくる糖質やたんぱく質の量が不足しないように、意識してしっかり摂りましょう。特に女子は「やせ願望」が出ることも多いため、エネルギー不足を起こさせないことが大切です。
「間食=おやつ」ではない!
必要な栄養を補う中高生の「補食」の考え方
「間食=おやつ」と連想しがちですが、中高生、特にスポーツを頑張る子どもにとっては「間食=補食」になります。3食では摂取しきれない必要な栄養を補う食事だと捉えましょう。
◎補食選びのポイント
- ①低脂肪
- ②必要な栄養素が摂取できること
- ③手軽さ・携帯性
必要な栄養素は練習の前後で異なります。練習の1時間前くらいには、バナナやようかん、カステラなどの「エネルギー源(糖質)」を摂るといいでしょう。練習後は2時間以内に「糖質+たんぱく質」の補給を。1回の間食の目安は300~500kcal。たとえば練習後なら鮭のおにぎりに100%の野菜ジュースや牛乳などを組み合わせて。あんぱんや肉まん、飲むヨーグルトなども手軽に購入できる補食例です。
スナック菓子や甘いケーキ、菓子パンなどは食事に影響のない量を時々食べるのであれば、「心の栄養」と捉えて楽しんでいいと思います。でもあくまで「心の栄養」なので、「体の栄養」もしっかり摂らなければいけないことを、親子で覚えておいてくださいね。
必要な栄養を自分で選べるようにする
「食事の自己管理能力」を身につけるサポートを
「中高生」といっても中学生と高校生では体の状態は異なりますし、個人差も大きいものです。人間も動物ですから、成長期には「お腹空いた」「もっと食べたい」と言うようになるものです。その声に耳を傾けて「お菓子でも食べて夕食まで我慢しなさい」と言わずに、栄養のある間食を摂らせてあげてくださいね。
また中学生や高校生になれば、コンビニなどで自分で食事を購入する機会も増えていきます。そのときに「安いから」「好きだから」ではなく、体のために必要な栄養を含む食品を自分で選べるようにすること、つまり「食事の自己管理能力」を向上させることも大切なことです。特にスポーツを頑張っている子どもであれば、親がユニホームを洗濯したり必要な道具を代わりに準備したりすることも必要かもしれませんが、食事の自己管理能力を身につけさせてあげることも大切なサポートではないでしょうか。それがアスリートとしても、一人の人間としても自立への一歩になるのではないかと考えています。
- (注1) 厚生労働省「日本人の食事摂取基準」(2020年版)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/eiyou/syokuji_kijyun.html
- (注2) 女子栄養大学出版部「時間栄養学ー時計遺伝子と食事のリズム」香川靖雄著
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監修者プロフィール
小嶋理恵子(こじまりえこ)
公認スポーツ栄養士/管理栄養士
2020年1月よりアスリート栄養サポート事業団体plus Nを主催。フィジカルコーチと連携を取り、スポーツに真剣に取り組むアスリートへ、勝つための体づくり、競技力向上を目指した栄養サポートを行っている。