”親子で「食」について考えよう”というテーマでお届けしてきたこのシリーズも第4回目。今回で最終回です。
おいしい!についてもっとお話ししてみよう!実験してみよう!ということで【おまけ編】をお届けします。
週末など時間がある時に、おうちの「おいしい味」についてお話ししてみませんか?普段の料理のかくし味をクイズにしてみたり、おうちにある調味料でドレッシングを作ってみたり、味の組み立てを楽しんでみましょう。前回に続き、社団法人全国料理教室協会 代表理事を務める麻生怜菜さんに、お話を伺いました。
おいしさの考え方。「基本5味」とは?
味は、甘味・塩味・酸味・苦味・うま味の5味に分類されます。(注1) 本来、生物が持っている「味覚」の機能は、栄養素や有害物質の存在を示唆する信号を感知する役割を担っていると言われています。
おいしさの考え方の基本5味
- ①甘味:糖の存在を意味しています。エネルギーが得られ、血糖が高められます。
- ②塩味:電解質の存在を示すシグナルです。特にナトリウムを適切に補給するために重要です。
- ③うま味:主にアミノ酸・核酸の味です。タンパク質が存在することを示しています。
- ④酸味・⑤苦味:本来は避けるべき物質の存在を知らせています。
赤ちゃんは甘味・塩味・うま味はすんなりと受け入れますが、酸味・苦味は嫌います。元々は「酸味や苦味が含まれるものは、人間にとって有害な物質だよ」と知らせるサインの味。大人になるとこれは苦いけど食べられるなどの知識がついてきますが、子どもの頃に酸味のあるトマトや苦味のあるピーマンが苦手なのはごく自然なことなのです。何度も食べて経験を積み重ねることで食べられるものと認識したり、周囲の大人がおいしそうに食べているのをみて、これはおいしいんだ!と学習するようになります。
もっとおいしくなる!うま味を意識した出汁の選び方とは?
グルタミン酸などのアミノ酸系・イノシン酸などの核酸系は、「うま味」として認識されます。お味噌汁などで使う「出汁(だし)」は、昆布にはグルタミン酸、鰹節や煮干しにはイノシン酸、干ししいたけにはグアニル酸が多く含まれています。さらに、「グルタミン酸×イノシン酸」「グルタミン酸×グアニル酸」など、うま味を重ねることで相乗効果が生まれ、2倍以上のうま味が広がるとされています。(注2)
「うま味+塩味+酸味」でおいしい味を組み立てる考え方とは?
調理で味を決める時、「土台・つなぎ・方向性」の3つの構造を意識するとおいしい味を組み立てやすいです。味の土台になるのが「うま味」や「甘味」、方向性(バリエーション)を決める「苦味」「酸味」、基本5味には入っていませんが、唐辛子の「辛味」やハーブなどの「スパイス」、そのつなぎの味として「塩味」などのミネラル系の雑味で組み立てるとおいしく味付けができます。
例えば、甘味や酸味のあるスイカに、つなぎとして「塩味」をふることで、甘味が際立って、酸味と良いバランスを保ってくれます。定番のカレーも、お肉などのダシ=「うま味」をベースに、スパイスをきかせて、「塩味」でつなぐことでおいしくなるのです。
簡単に3構造を意識できるものとして、サラダのドレッシングを手作りしてみてはいかがでしょうか?葉物の「苦味」に対して、「うま味」の「油」で土台を作り、味をつなぐ「塩味(塩)」、キレを出す「酸味」「辛味」を追加し、バランスを整えるとおいしくなります。
マイレシピのかくし味に意識したい「コク」の正体とは?
カレーライスやシチュー・豚骨ラーメンのスープなどには「コクがある」と言います。多種の食材を使用し、長時間煮込んで料理したもの、長時間熟成したもの(チーズ・生ハムなど)、油脂が多く含まれているもの、多種の材料や長時間の製造プロセスを経て作られるものは、「コクがある」と感じやすいようです。
コクとは、一般的に多く種類の味わいが複合して、単独の味が識別できなくなった状態。「空間的な広がりがある味」とも表現され、味を認識するには時間的な差があり、余韻が長く続くのが特徴です。深み・広がり・まろやかさ・濃厚感・持続性・厚みなどの言葉で表現したりもします。コクの中心(コア)は、「油脂」、砂糖やみりんなどの「甘味」、「出汁」など複雑なうま味です。物質だと「グルタチオン」「グルタミルバリルグリシン」を味溶液や食品に添加すると、ある種のコクが感じられます。
かくし味と呼ばれるものは、この「コク味」を広げるものであることが多いようです。味のベースを構成している味をマスクするほどは強くないけれど、それぞれの味がともに感じられ調和している時、その複雑さや広がりがコクとして感じられるのです。
例えば・・・
<カレーライスのかくし味+りんご>
カレーライスに入ったスパイスを、より丸い味にする抑制効果として、砂糖ではなくりんごや蜂蜜を使う方が多いですね。甘さの対比効果だけでなく、りんごの酸味や蜂蜜のコク・雑味をプラスすることで、より味に厚みがでます。チョコレートを入れる場合も同様の効果が期待されます。
かくし味は、隠れてこその味。何が入っているのかわからないけど、おいしい!と思うくらいがちょうど良い味加減になります。(注3)
食について調べよう!深掘りしよう!
食品の味は、成分間での増強や抑制が働きながら総合的に決定されます。同種類の味を呈する2つ以上の物質が共存する時、単独の味の和より強い味が得られる現象を「相乗効果」といいます。異質の味が存在する時、一方が他方の味を強める現象を「対比効果」、弱める現象を「抑制効果(マスキング)」といいます。相互作用は味物質の組み合わせや濃度によってさまざまに変化しながら必要な味を引き立ててくれるのです。
【食品の味を決定する効果】
- ■相乗効果:同じ味をもつ2種類以上の呈味物質を混合したときに、相互に味を強め合う現象のこと。
例:昆布だし(グルタミン酸)+カツオだし(イノシン酸)= うま味+うま味
- ■対比効果:2種類以上の異なる味を混合したときに、一方または両方の味が強められる現象のこと。どちらか一方の味が強く、それに対して他方の味が弱いときに起こりやすい。味の増強作用とも。
例:お汁粉に塩を入れる(甘味+塩味)
例:味噌汁やお吸い物にダシを入れる(うま味+塩味)
- ■抑制効果:2種類以上の異なる味を混合したときに、一方または両方の味が弱められる現象のこと。両方の味の刺激が対等なときに起こりやすい。
例:コーヒー(苦味)に、砂糖(甘味)やミルク(うまみ)を入れる→苦味が抑えられる。
例:魚の塩焼きにレモンやカボス汁をかける(酸味+脂味)→レモンやカボスの酸味が、油っこさ・塩からさをやわらげる。(注4)
味の組み立てを意識して手作りのドレッシングを作ってみたり、味の変化を意識してスイカに塩をふってみたり、「カレーのコクをさらにだすには何を入れると良いかな?」と考えてみたり・・。
毎日のごはんも、ちょっとした工夫で子どもにとっては新しい視点が増えたり、食に対する考え方が変わったりするかもしれません。
さらに、味の構造を分析して理解していくことによって、レシピに頼らなくても冷蔵庫にある食材や調味料を使って、パパッとおいしく料理ができるようになるかもしれません。
ぜひ、時間のあるおうち時間に、子どもと食育や実験などいろいろ試してみてはいかがでしょうか?毎日のごはんが、少しでも楽しく豊かに広がっていきますように。
- (注1) おいしさの科学事典(朝倉書店) 山野 善正 味覚ステーション(日本味覚協会)
https://mikakukyokai.net/2014/06/09/ajinobunrui-gomi/
- (注2)おいしさの科学(講談社) 佐藤成美
- (注3)コクと旨味の秘密(新潮新書)伏木亨
- (注4)味覚ステーション(日本味覚協会)
https://mikakukyokai.net/2015/05/04/suikanisio/
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