毎日何気なく食べている野菜にはさまざまなチカラがあることを知っていますか。
野菜が苦手な子どもも多いですが、勉強やスポーツへの集中力をアップしてくれるなど、中高生にとって大切な栄養を多く含んでいますので、毎日たっぷり摂りたいですね。
野菜ソムリエPro.として日本野菜ソムリエ協会認定料理教室を主宰し、高校生と春から中学生の子どもを持つお母さんでもある安部加代子さんに、“野菜のチカラ”や、“子どもにおいしく野菜を食べさせるコツ”などについて伺いました。
日本人は野菜不足!?勉強やスポーツへの集中力維持のためにも野菜を摂ろう
厚生労働省は生活習慣病などを予防し、健康な生活を維持するための目標値として、「野菜類を1日350グラム以上食べましょう」(注1)と掲げています。しかし日本人の平均摂取量は男性で290グラム、女性で273グラムと、どの年代でも目標値には届いていません。野菜が健康に良いとは思っていても、意識をして積極的に食べなければ、大人も子どもも必要量を摂取できていないものなのです。
とはいえ、毎日野菜だけを食べていれば良いのではなく、まずは3大栄養素である『たんぱく質』『糖質』『脂質』をしっかり摂ることが大切です。そのうえで野菜は、それらの栄養素が体にとってより良い働きをするように助けるさまざまな働きをしてくれます。
たとえばいろいろな野菜に含まれる食物繊維は、血糖値の上昇をゆるやかにしてくれる効果があります。空腹時に糖質を一気に摂取してしまうと、血糖値の急な乱高下を引き起こし、眠気やだるさの原因に。食物繊維を摂ることで血糖値が安定しやすくなり、長い時間勉強やスポーツに集中できるようになります。
お腹が空いているときは、真っ先にご飯やパンを食べたくなってしまいますが、単品食いせずに野菜も一緒に摂りましょう。長く集中力を持続させるためには、たとえばパンなら菓子パンより野菜サンドイッチにする方がおすすめです。
しかし1日に野菜類を350グラム以上食べれば良いからといって、どれか1つだけをたくさん食べることはおすすめできません。季節によって栄養素が変化するものもあるので、なるべく栄養価の高い旬の野菜を中心に、1日3回の食事でさまざまな種類を摂りましょう。
野菜をおいしく食べるには、適した食べ方を知ることが秘訣
野菜は生で食べることと加熱して食べることの両方に良さがあります。生で食べたときの食感や香りの良さを、特に旬の時期には味わってほしいと思います。
一方で加熱することで量をたくさん食べることができるようになるというメリットもあります。時短調理に便利な電子レンジですが、電子レンジ調理することで味だけではなく、食感も変わるものがあります。
たとえば、玉ねぎはフライパンで炒めるよりも、電子レンジで加熱するほうが短時間でグッと甘く仕上がります。私は青菜類も、サッと水をかけたあと、よく電子レンジで加熱しています。
逆に、にんじんやさつまいもは電子レンジで加熱すると食感が悪くなったり、甘味が出ないまま加熱されてしまうため少し注意が必要です。素材に合わせて適した調理法を知ることも、野菜をおいしく食べる秘訣です。
野菜は皮と実のあいだに栄養があるともされています。野菜の皮はすべて剥かなければいけないと思っている人も多いですが、たとえばスーパーで売られているきれいに洗われたにんじんは、すでに皮が少し剥けている状態だとされています。ピーラーで厚く皮を剥いてしまうのはもったいない!私は調理前によく洗ったあと、皮を剥かずそのまま使っています。
大根も小さめに切ってみそ汁に入れるときも、私は皮を剥きません。逆に大根の煮物など皮を厚く剥いた場合は、捨てずに千切りにして、きんぴらにしたり、干して使うことも。食品ロスを減らすという観点からも、できるだけ無駄なく食べてほしいと思います。
中高生が気になるお肌の悩みも野菜のチカラが効果アリ!?
中高生になると、肌荒れやニキビに悩む人も増えてくるでしょう。また思春期には太りたくないという思いが強くなり、食事の量を減らしたり、朝食を食べなかったりする話もよく聞きますが、大切な成長期ですから決して勧められません。野菜中心のメニューで、3大栄養素も欠かさずしっかり摂ることをおすすめします。
お肌の調子を整えてくれる効果を持つことで有名なビタミンCは野菜・果物に多く含まれています。ビタミンCは長時間体内に蓄積できないため、フルーツと合わせて毎食こまめに摂りましょう。
ビタミンCを意識したいときにおすすめなのがブロッコリー。ただし、ゆでるとビタミンCが流出してしまうため、電子レンジを使って調理するのが良いでしょう。
ブロッコリーは、どうしてもつぼみの部分に目がいきがちですが、捨てられがちな茎のほうが栄養価が高いとされています。固い部分を取り除いてゆでるとアスパラガスのような食感が楽しめますし、わが家では生のまま薄くスライスして、千切りにしナムルのようにしてよく食べます。サクサクとした食感が味わえておいしいですよ。
パプリカは加熱しても、ビタミンCが壊れにくい野菜です。色によって栄養素が異なり、赤はリコピン、黄色はカロテンも豊富。サラダなどに色とりどりになるよう複数のパプリカを加えると、1皿でいろいろな栄養素を摂取できます。野菜炒めに加えるのも良いですね。
集中力維持にも効果が期待できる食物繊維も腸内環境を整えて、老廃物の排出を助けてくれます。お肌の調子を整える効果にも期待できるでしょう。
種類別 普段食べている“野菜のチカラ”とおいしい食べ方
ここからは普段よく食べている身近なものの中から、さまざまなチカラを持つ野菜と、おすすめの食べ方を紹介します。
●ごぼう
ごぼうを調理するときに、水にさらしてアクを取り除きますが、アクの正体はポリフェノール。抗酸化作用を持ち、体に有益な働きをしてくれる成分です。煮物などごぼうの変色が気にならない料理に使うのであれば、水につけずにそのまま調理する方がポリフェノールも逃さず摂取できて、水につける手間も省けます。ごぼうくささが苦手だったり気になる人は水にさらしてから使うと良いでしょう。
ごぼうの食物繊維は野菜の中でもトップクラス。しかも食物繊維は水に溶ける水溶性と、水に溶けない不溶性に分けられますが、ごぼうはその両方を含んでいます。
<おすすめの食べ方>
ごぼうなどの根菜類は煮物にすることが多いですが、中高生のおかずにするなら揚げ物がおすすめ。煮物と違って汁気を気にしなくて良いので、お弁当のおかずにもしやすいです。ごぼうのほかに、根菜類だとさといものフライもおいしいですよ。
<おいしい時期/保存方法>
4月~7月、11月~12月
ビニール袋に入れて、冷蔵庫の野菜室で立てて保存。
土つきの場合は、そのまま新聞紙で包み風通しの良い場所で立てて保存。
●ピーマン
子どもが苦手な野菜の代表格ですね。パプリカには劣りますが、ビタミンCを含んでいます。ほかにもカロテンやカリウム、ビタミンEなども含むので、できれば嫌がらずに食べてほしい野菜の1つです。
<おすすめの食べ方>
ピーマンの苦みが嫌いという場合には、油をひいたフライパンで、じっくり炒めてあげると甘みが出て食べやすくなります。種周りの白いところを丁寧にとってあげると歯ざわりもよくなりますよ。
<おいしい時期/保存方法>
6月~9月(栽培日数のかかる春ものもおいしい)
痛みの原因になる水気は厳禁。ビニール袋に入れて冷蔵庫で1週間。
●枝豆
食物繊維やビタミンC、カリウムのほかに鉄なども含みます。植物性のたんぱく質も豊富です。旬は夏ですが今は年中、おいしいものが冷凍で食べられます。冷凍はすぐに解凍できる使いやすさもありますから、調理の時短にも向いています。
<おすすめの食べ方>
子どもも大人も好きな人が多い野菜です。食事以外でも、間食として利用するのも良いと思います。鞘つきのままオーブンでローストしたり、豆とじゃこの混ぜご飯にするのもおすすめ。ずんだ餡のようにスイーツにしたり、ポタージュにしてもおいしいですよ。
<おいしい時期/保存方法>
7月~9月
かためにゆでて冷凍保存。
●小松菜
クセやアクがないので調理がしやすいうえに、苦みも少なく、鉄分やカルシウムなどの栄養も豊富です。
<おすすめの食べ方>
10~3月頃は甘くて葉が柔らかいものが売られているので、生で食べてもおいしいです。和洋中どんなメニューにもよく合います。
<おいしい時期/保存方法>
12月~2月
しめらせた新聞紙に包み、立てて冷蔵庫に入れ2~3日。
●レタス
食物繊維やビタミン、カリウムなどを含みます。いろいろな種類のレタスがありますが、実はそれぞれ栄養素が異なり、グリーンカールやサニーレタスのように葉が開いたものは、一般的な球のレタスよりも太陽をたくさん浴びて育つため、栄養素がより高くなります。球のレタスは淡色野菜ですが、グリーンカールやサニーレタスのように緑が濃いレタスは緑黄色野菜に含まれます。その分、苦みも強くなりがちなので好みにもよりますが、レタスを選ぶ際の参考にしてほしいと思います。
<おすすめの食べ方>
レタスの水溶性のビタミンは、加熱すると逃げてしまうものの、生では一度にたくさんの量が食べられないというデメリットも。スープなどに入れて、汁ごと食べてしまえば問題ありません。
<おいしい時期/保存方法>
4月~9月
外葉で包み、ビニール袋に入れて冷蔵庫で2~3日。
●にんじん
にんじんの代表的な栄養素はカロテンで、他にもカリウム、カルシウムも豊富で、ビタミンCも含まれています。よく見かけるオレンジのにんじんに加えて、最近は赤や黄色のにんじんも増えていて、色によって栄養が異なります。赤いにんじんにはトマトなどに含まれ、強い抗酸化作用を持つリコピンも含まれています。
<おすすめの食べ方>
油との相性が良いので、かき揚げにするのがおすすめです。キャロットラペ、にんじんしりしりも手軽でおいしく食べられますし、キャロットケーキなどスイーツにもおすすめ。
<おいしい時期/保存方法>
4月~7月、11月~12月
ビニール袋に入れて冷蔵庫の野菜室で立てて保存。
●キャベツ
ビタミンCのほかキャベジンという胃の粘膜を保護して、消化を助けてくれる成分があります。揚げ物の付け合わせによく千切りのキャベツが添えられていますが、油によるもたつきなどを抑え、胃を守ってくれる理にかなった食べ方です。千切りではなく手でちぎったものでも◎。
<おすすめの食べ方>
春キャベツの時期は葉がやわらかく甘みがあるので、ぜひ生のまま味わってほしいです。炒め物などにするときも、生でも食べられるものなので長い時間の加熱は必要ありません。食感を残せるよう、サッと炒めましょう。
<おいしい時期/保存方法>
春キャベツ:3月~5月、夏キャベツ:7月~8月、冬キャベツ:11月~3月
カットしたものはラップで包んで、冷蔵庫で保存。
子どもの野菜嫌いには、“食の会話”を増やしてみましょう
私の主催する料理教室の生徒さんにも、野菜嫌いの子どもを持つ保護者の方が多くいます。「どうしたら野菜を食べるようになりますか?」というお悩みに対して、いつもお話しているのは決して1回であきらめないことです。「一度食べなかったからもう二度と出さない」のではなく、少し時間を置いたり、別の調理法で食卓に出してみましょう。お母さんやお父さんが食べている姿を見せることも大事なことです。
中・高校生にもなれば、「この野菜のどんなところが嫌いなの?」と聞いてみるのも良いと思います。案外と「ゆでたときの食感が苦手だけど焼いたら食べられる」「毎日は嫌だけど、たまになら食べても良いよ」など、子どもなりの意見を出してくれるものです。うちの子どももかぼちゃの煮つけは嫌がるけれど、フライにするとよく食べます。聞いてみると、煮たときのベチャッとした食感が苦手だったよう。自分が苦手でなければ、相手が苦手な理由はなかなか理解できないものです。お子さんとの“食”の会話をぜひ増やしてみてください。
思春期に入って、親の手伝いをすることが恥ずかしい時期かもしれませんが、理想はキッチンに一緒に立つことが増えると良いですね。自分で作ることで、食への意識が変わっていきます。気づかないうちに家庭科の調理実習で学んでいて、家で教えていないことができるようになっている、なんてこともあります。中高生にもなれば、親が知らない一面があるものです。
横にいるといろいろ言いたくなる気持ちもよくわかりますが、そこはグッとこらえて、メニュー決めや買い物リスト作りからお任せしてみるのも良いかもしれません。そうすることで、将来に向けた大切な食の知識を、子どもに中高生のうちから身に付けさせてあげることができると思います。
間もなく新学期。気持ちも新たに、目標に向かって頑張る子どもを、毎日の食事から応援してあげましょう。思春期の体調管理や、勉強やスポーツへの集中力を高めるためにも、ぜひ野菜たっぷりの食習慣を取り入れてみてくださいね。
- 【参考文献】
- (注1)厚生労働省が推進する健康作り運動「健康日本21」
-
監修者プロフィール
安部加代子(あべかよこ)
日本野菜ソムリエ協会認定料理教室「Kayo’s Vegetable Laboratory」主宰。野菜ソムリエpro.、受験フードマイスター、腸活プランナーなどの資格を持つ。野菜たっぷりのおうちごはんをはじめ、受験生を食で応援する『受験フード』を発信している。