最近、親子で交わした食卓での会話について覚えていますでしょうか。食べているものについての会話はありましたでしょうか。「おいしいね」「何が入っているの?」「どんな味付けをしたの?」。そんな些細な、食をきっかけとした会話が実は食育には大事なのです。今回は、”親子で「食」について考えよう”というテーマで社団法人全国料理教室協会 代表理事を務める麻生怜菜さんに、お話をうかがいました。
食育の第一歩として「食」について話をする習慣を
『食と家族のコミュニケーション』に関する調査(注1)では、家族と一緒に朝食を「毎日」食べる人は4割弱。家族一緒に夕食を食べる頻度は「毎日」が3割弱、「週1~2日」が2割強との結果となっていて、生活スタイルが多様化している中、食卓を家族一緒に囲む機会自体が少なくなっていることがうかがえます。また、麻生さんは「親子向けの料理教室を行ったりする中で、毎日の食事の時にどんな会話をしているのか聞いてみると、お子さまの幼稚園や学校の様子・お友達との遊びのことなどの話題が多く、特に兄弟姉妹がいると、「早く食べなさい!」「こぼさないで〜」など、注意喚起が多い」と、今食べている料理や食材の話・料理の感想などが意外と出ていない印象があると言います。
家族一緒に食卓を囲む機会があれば、年齢問わず共通の話題になり、食育にもつながる「食」の話題を心がけてみてはいかがでしょうか?
食育とは?~大人も子どもも食育しましょう~
農林水産省では、食育とは「様々な経験を通じて、食に関する知識・食を選択する力を習得し、健全な食生活を実践することができる人間を育てること」と定義しており、2005年に成立した食育基本法では、「生きる上での基本であって、知育・徳育・体育の基礎となるべきもの」と位置づけられています。(注2)
毎日口にする食べ物が、私たちの身体をつくり、心身ともに成長させ、活動源となります。身体の細胞は、日々少しずつ入れ替わっていきますし、年齢によっても必要な栄養素は変わってきます。その日食べる物を作るだけではなく、子どもも大人も、その時々年齢や体調に合わせた食を自ら選択できるよう導くことが食育ともいえるでしょう。
「食育」が重要とされる背景には、栄養の偏りや、不規則な食事などによる生活習慣病が、若い方に増加傾向であることがあります。また過度なダイエットが、生理不順の原因になったり、病気に対する免疫力低下を引き起こすことにもつながっています。
せっかく親が、食事バランスがとれるような料理を日々作って食べさせていても、子どもに「どんな食材を選べば良いのか」「なぜこのバランスで食べなければいけないのか」が伝わらなければ、子どもが将来一人暮らしをした時などに困ります。何を食べれば良いのか、どんな栄養があって身体にどのような効果をもたらすのか、健康を維持するために必要な食生活が選択できるような知識と習慣を子どもが身につくまで育てなければいけないのです。
こんなことを聞くとなんだか難しそう、と懸念をされる方もいらっしゃるかと思いますが、食育の第一歩として、毎日の食事内で「食」の話題を取り入れてみてはいかがでしょうか。食の話がきっかけで、多方面に子どもの成長を促してくれます。麻生さんは「我が家の子供2人のうち、姉は小さい頃は偏食でした。しかし、食材や調理する過程を見ることで、ちょっとずつ食に興味が出てきたり、ある日突然何でも食べられるようになりました。一方、弟は離乳食から何でも食べる子でした。弟の方が丁寧なご飯は作れていなかったのに不思議です。」との実体験からも、好き嫌いの多さも個性として受け止め、気長に食に興味を持つようなお話を色々な切り口で続けていきましょうとおっしゃいます。
今日から始められる、食の会話「レパートリー6選」
~ちょっと時間がかけられる時の週末ご飯は家族で食育を~
家族で食卓を囲む時は食育の深掘りを!親が旗振り役になって、食の話題がもっと楽しく広がるように工夫してみましょう。今回は、すぐにでも始められる6つのレパートリーをご紹介します。
[1]作ってくれた方への「感謝」の言葉
「作ってくれてありがとう!」「今日の●●おいしいね!」
これはぜひ習慣にしましょう!みんなで言葉に出してみましょう! また親から言葉を投げかけるのも良いです。
- 母「このお野菜おいしいねー!」
- 子「うん!おいしいね!」
はじめはこのくらいでも、今食べている物に注目するきっかけとして十分です。少しずつ会話の内容を広げていきましょう。
[2]「食材」に興味を持ってもらう
- 子「この野菜はなに?きゅうりかな?」
- 母「見た目はきゅうりみたいだよね。でもこれはズッキーニ。きゅうりのように表面がざらっとしていなくて、ボツボツもなく、つるっとしているんだよ。」
子どもに質問されたら食育のチャンス!知っておいてほしいことを伝えましょう。食べながらだと印象にも残りやすいです。ただし、話す方も事前準備が必要です。旬の時期やどんな調理法が向いているのか、子どもの年齢や興味の範囲に応じて、その時楽しんで会話できる量の言葉を選びましょう。
[3]「作り方」に興味を持ってもらう
- 子「どんな調味料が入っているの?」「この料理はどんな材料を使ったの?」「どんなふうに調理したの?」
そんな質問が出たら、我が家の味を伝えてみましょう。味のポイントや調理方法を話してみるのもいいでしょう。また、親から聞いてみるのも良いかもしれません。
- 母「今日のドレッシングの味はどう?」
- 子「うーん。すっぱいね。」
- 母「そうそう!実はレモンとお酢も少し入れてみたんだよ。レモンとお酢の酸味が味覚や嗅覚を刺激するから食欲が増してくるでしょう?」
何が入っているのかわかってくると、食への興味が深まっていきます。
[4]「食材」がどうやって育っていくのかを伝える
食べるだけではなく、その料理に使われている食材がどのようにできたかを教えてみるのもいいです。またプランターや水耕栽培で簡単に育つ食材もあるので、実際に育ててみたものを食卓に並べてみるのも一つの手段です。ミニトマトであれば、実を割って種を土にまくだけでも育ちます。野菜1つできるのに、こんなに時間と手間がかかるんだ!と発見があるでしょう。
- 子「このトマトってどうやってできたの?」
- 母「今度、一緒に育ててみようか!?」
[5]いつも買っている物の「製造工程」を伝える
食材の育ち方だけでなく、味噌やヨーグルトなど、普段は購入している食材の作り方を説明してみてはいかがでしょうか。その食材が何からできているのか知るきっかけにもなりますし、完成するまでたくさんの工程があることを知ることで、食材をより大切にいただく気持ちになります。
- 子「いつも食べているヨーグルトはどうやって作られているの?」
- 母「ヨーグルトは、普段飲んでいる牛乳に菌を混ぜることでできているんだよ。」
[6]親子で一緒に「料理」をしてみる
親子で一緒に料理を作ってみるとより会話が進みます。さらに、時間がある時は、買出しから料理まで親子で一緒にチャレンジしてみましょう!子どもも自らが作ることでより苦労がわかります。また、その効果でいっそうおいしく食べることができます。五節句などの行事食などをきっかけにしてみるのも良いですね。
食べることは一生続く基本的な営みです。子どもはもちろん、大人になってからも食育はできます。むしろ大人になってからも生涯にわたって育み続けていくものだと思います。大人になっても知らないことは、ぜひ調べて知識を広げてみてください。知ることで食材や調味料の使い方にも、さらにこだわりが出てくるかもしれません。この結果、家族がより健康で元気に生活し続けられる食生活になれば最高ですね!
「食べる力」=「生きる力」を育むことは、気づいた時からコツコツと積み重ねていくことが重要です。毎日のご飯で楽しく食育!「考えて食べる」力が身につきますように。
(\親子で「食」について考えよう/これからも順次公開予定ですので、お楽しみに!)
- 【主要参考文献】
- (注1) 食と家族のコミュニケーション
https://myel.myvoice.jp/products/detail.php?product_id=18906
- (注2) 食育
https://www.maff.go.jp/j/syokuiku/
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