秋の味覚の代表格といえば「サンマ」。秋に水揚げされるものは脂がたっぷりのり、1年の中でも特においしいことで知られています。日本の秋を豊かに彩るサンマは、実は子どもの成長に欠かせない栄養素を豊富に含む優秀食材。
今回は、知られざるサンマの豆知識から効果的な食べ方を、和食のプロであり出張料理人としても活躍中の井上憲子さんに伺いました。
「サンマ」の本当の旬は1ヶ月?!
サンマは季節によって生息地を変える回遊魚。毎年8月中旬頃、オホーツク海から親潮にのって太平洋側に南下します。主な漁場である、親潮と黒潮がぶつかる三陸沖で餌となるプランクトンが9月〜10月に豊富となることから、この時期のサンマが最も脂のノリが良く、おいしく食べられると言われます。
「サンマ」の鮮度や脂のノリを見極めるポイントとは?
新鮮さが比較的わかりやすいサンマ。ここでは鮮度や脂のノリを見極めるポイントを4つご紹介します。
<サンマの鮮度や脂のノリの見極め方>
- ●身幅が太く、ふっくらしている
身幅がふっくらし、首の付け根から背中にかけてこんもりと盛り上がっているサンマは脂のノリがある証。“長さ”よりも“太さ”で選びましょう。
- ●口先が黄色い
口先が黄色いかどうかも鮮度の目安の一つ。水揚げから時間が経つにつれ、徐々に茶色へ変化していきます。
- ●ハリがある
新鮮なサンマは身にハリがあるのが特徴。お腹まわりがブヨブヨしているサンマは鮮度が落ち始めているので、避けたいところです。
- ●目が透き通っている
魚全般に共通しますが、鮮度は目に現れます。濁っているような色の目の魚は、新鮮とは言えません。できるだけ目が透き通っているサンマを選びましょう。
子どもの成長期の骨や歯に欠かせない栄養素がたっぷり!
旬のサンマはおいしいだけでなく、ビタミンやミネラル、カルシウムなど栄養素も実に豊富。ここでは成長期の子どもにもうれしい成分をピックアップします。
<成長期の子どもにうれしい成分>
- ●DHA・EPA
脳や神経細胞などの構成成分で、記憶力や学習能力のアップが期待できます。またアレルギー性疾患や炎症の疾患を改善する働きがあるのも特徴。
- ●カルシウム・ビタミンD
サンマは骨や歯の健康に欠かせないカルシウムが豊富。しかも、カルシウムの吸収を促すビタミンDも多く含まれるため、効率よく摂取できるのも魅力です。
- ●鉄分
赤血球の材料となり、身体中に酸素を運ぶ役割を持つ鉄分。貧血を予防する働きもあります。
- ●ビタミンB12
赤血球中のヘモグロビン生成を助け、血液を作るのに大切な役割を果たす成分。不足すると貧血や神経障害を引き起こす可能性も。
子どもに内臓を食べさせるべき?
文部科学省による「日本食品標準成分表(注1)」ではサンマの内臓の栄養素の数値は定められていませんが、一般的にビタミンAや鉄分、カルシウムが豊富と言われています。とはいえ、子どもにとってはあの独特の苦味がおいしく感じられないこともあるでしょう。必要な栄養素は身や皮からも十分摂れるので苦手な場合は無理に内蔵を食べさせなくても良いでしょう。内臓には「アニサキス」という寄生虫が潜んでいる可能性がありますが、70度以上で加熱すれば死滅します。そのため内臓を食べる場合は、十分に加熱するように注意しましょう。
「サンマ」の“塩焼き”の上手な焼き方とは?
サンマといえば「塩焼き」。定番の調理法ながら、皮が網にこびり付いてしまったり、パサついてしまったりと意外に難しいもの。ここでは誰でも上手に焼けるポイントをご紹介します。
<サンマを上手に焼く方法>
- ●焼く30分〜1時間前に塩を振る
魚に塩を振るのは焼く直前が一般的。ですが脂がたっぷりのった旬のサンマは塩が浸透しづらいため、焼く30分〜1時間前に振っておきたいところ。出てきた水分は焼く直前にキッチンペーパーで拭きとりましょう。
- ●焼き網をしっかり熱しておく
魚焼きグリルを使用する場合は、網を十分熱しておくのが上手に焼くためのポイント。盛り付けた時に上になる面から焼いていきます。
- ●ひっくり返すのは1回のみ
焼いている途中、何回もひっくり返してしまうと身崩れの原因になります。理想は1回。魚焼きグリルの場合は、片面を7〜8分焼いたらひっくり返し、裏面を3〜4分焼きます。フライパンの場合も表面を7〜8分、裏面を3〜4分。表面を焼く間は蓋をして、ひっくり返した後は皮のパリッと感を出すため蓋を外します。クッキングシートやフライパン用アルミホイルを併用すると皮がくっつきにくく、キレイに焼けるのでおすすめです。
意外と知らない?「サンマの塩焼き」のキレイな食べ方
- 背骨に沿うように一直線にお箸を入れ、表側の上半分を頭から尾に向かって食べ進めます。
- 下半分も頭から尾にかけて食べます。
- 表側を食べ終えたら背骨を外してよけ、背骨裏側の上→下という順番で食べ進めます。(お皿の上でサンマをひっくり返さないのが理想的)
- 残った骨や頭、内臓はお皿の片隅に寄せておきます。
野菜と組み合わせれば栄養素の吸収もアップ!
野菜の組み合わせや調理によって、サンマの栄養素の吸収を促すなど、おいしいだけでなく健康面でも役に立つこともあります。
例えば、塩焼きに添えられる大根おろしやすだちはビタミンCが豊富。ビタミンCはカルシウムや鉄分の吸収率を助ける働きがあり、一緒に食べることでサンマのミネラルを効率よく摂取できるのです。さらに大根おろしにはアミラーゼという消化を促進する酵素も含まれており、脂ののったサンマの消化吸収をサポートする働きも。大根おろしはおいしいだけでなく、栄養面でも大変優れた添え物と言えます。
魚に含まれるDHAやEPAは酸化しやすいという弱点がありますが、抗酸化作用のある緑黄色野菜を合わせることでカバー可能。
例えば、サンマをパプリカやブロッコリーとアヒージョにすれば、DHAやEPAを効率よく摂取できるだけではなく、オイルをパンにつけて食べられるので、身から流れ出た栄養分もいただけます。アヒージョに使われるニンニクにもアリインという抗酸化作用成分が含まれるので、一石二鳥です。
また三枚におろしたサンマでミニトマトを巻いて焼けば、トマトのビタミンCが加わり、サンマの栄養の吸収をぐっと高めることもできます。サンマは骨まで食べるとカルシウムをより摂れるので、圧力鍋を使った煮込み料理もおすすめです。
塩焼きが苦手な子どもには蒲焼きなど、甘辛い味付けにするのもいいでしょう。お弁当にもピッタリですね。トッピングとして胡麻を加えるとビタミンEや抗酸化作用がプラスされ、サンマの栄養素をしっかり摂ることができます。
組み合わせる野菜はサンマと一緒に調理しなくても、サラダや小鉢など、別の料理として食卓にプラスするだけで相乗効果は十分得られます。「手軽においしく」を大事に、秋の味覚の「サンマ」を楽しんでくださいね。
- 【参考文献】
- (注1) 文部科学省「日本食品標準成分表2020年版(八訂)」
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プロフィール
井上憲子さん(いのうえ のりこ)
近茶流懐石教授、野菜ソムリエプロ、高知野菜サポーター、調味料ソムリエ
「旬の食材を手軽に美味しく食卓に」をモットーに、素材の味を活かすシンプルな料理を提案。小学校での出前授業、出張料理などを通して食育活動を行う。