もうすぐお盆の季節です。“お盆”は古くから続いてきた日本の伝統的な風習ですが、その由来や過ごし方の意味については知らない方も意外と多いのではないでしょうか。
お盆の過ごし方は地域や家庭によってさまざまですが、基本的な由来や意味を理解することで、日本古来の文化がより身近に感じられるでしょう。今回は、お盆に飾る“きゅうり”と“なす”の意味や、昔の人が暮らしの中で活用してきた“きゅうり”と“なす”の効果的な食べ方などをご紹介します。日本古来の文化と暮らしの知恵を知り、ひと味違う伝統的なお盆を過ごしてみませんか?
「お盆」は何をする日?日本の伝統的なお盆を知ろう!
お盆とは、仏教行事の「盂蘭盆会(うらぼんえ)」のこと。毎年7~8月の一定期間、この世に戻ってくるとされるご先祖様の魂をお迎えし、供養することで感謝を捧げます。現在では、旧暦の7月15日前後にあたる8月13日~16日をお盆とする地域が多いですが、一部では新暦の7月15日前後としている地域もあります。
「お盆」の発祥には2つの説があります。1つはインド由来のもので、お釈迦様の弟子の目連尊者が、餓鬼道で逆さ吊りにされている亡き母親を救うために、僧たちに捧げものをして供養したという逸話から、「逆さ吊り」を意味するインド語、「ullambana(ウランバナ)」を漢字に直し、「盂蘭盆」となったとする説。
もう1つは、かつて正月とお盆にご先祖様にお供え物をした器を「ボニ」と呼んだことから、これがなまって「盆(ボン)」になったという日本由来の説です。
お盆に「きゅうりの馬」「なすの牛」を飾る理由
きゅうりの馬は「精霊馬(しょうりょううま)」、なすの牛は「精霊牛(しょうりょううし)」と呼ばれます。精霊馬と精霊牛は、ご先祖様の魂があの世とこの世の自宅を行き来するための「乗り物」を意味しています。一般的に速く走る馬は「できるだけ早く家に帰ってきてほしい」。ゆっくりと移動する牛は「少しでも長くこの世にいてほしい」という願いが込められているそうです。
●精霊馬・精霊牛を作ってみよう!
きゅうり・なすのヘタの部分を頭に見立て、お腹部分に4頭分にした割り箸、もしくはつまようじ4本を突き刺して足に見立てる。
●精霊馬・精霊牛の飾り方を知ろう!
<飾り方>
地域によって飾り方は異なりますが、精霊棚や家の門、玄関先に飾るのが一般的です。精霊棚に飾る場合は、8月13日のお迎えの際は頭を家の内側に向け、16日の送りの際は頭を家の外側に向けます。門や玄関先に飾る場合は、家の外側に頭を向けて飾る方法が主流です。
<処分方法>
お盆が過ぎたら、精霊馬・精霊牛は決められた方法で処分します。地域や家によってさまざまなしきたりがありますが、ここでは一般的な方法を紹介します。
- (1)8月16日の送り火で焼却
- (2)8月16日の精霊流しで川や海に流す
※自治体によっては禁止されています。お住いの自治体に確認の上行ってください
- (3)塩を入れた半紙に包んで塩で清めて捨てる
- (4)土に埋める
- (5)お寺でお炊き上げをしてもらう
きゅうりとなすの栄養成分をおさらい!
昔の人がお盆のお供え物にきゅうりとなすを使用したのは、“その時期に旬を迎え、手軽に手に入る野菜だったため”といわれています。夏野菜の代表ともいえる「きゅうり」や「なす」の栄養成分やお店での選び方、保存方法を知り、暮らしに役立ててみましょう。
<きゅうりの栄養成分>
きゅうりの約95%は水分とされ、体を冷やす作用があります。栄養素自体は少ないものの、以下のような、現代人に不足しているビタミン・ミネラル類がバランスよく含まれています。
- ・カリウム
摂り過ぎたナトリウム(塩分)を体外へ排出し、筋肉や神経の働きを調整してくれます。
- ・ビタミンK
脂溶性のビタミンであるため、油と一緒に摂ることで吸収が良くなります。
- ・ビタミンC
皮膚やコラーゲンを作る働きがあるため、その材料であるタンパク質と一緒に摂るのがおすすめです。また、水溶性なので水にさらし過ぎないように注意が必要です。
- ・葉酸
ビタミンB12とともに赤血球を作るため、貧血気味のときに摂ると良いでしょう。
- ・パントテン酸
エネルギーの代謝をサポートします。水溶性で熱に弱いため、生のまま摂ると良いでしょう。
- ・シトルリン
スイカの果汁から発見されたアミノ酸です。血管の機能維持に関係しているといわれています。
- ・食物繊維
便通の改善や食後の血糖値上昇の予防、血中のコレステロール値を低くするといった働きがあります。
<なすの栄養成分>
全体の約93%が水分とされ、きゅうりと同様カリウムも豊富に含んでいます。また、黒紫色の皮には、「第7の栄養素」といわれるフィトケミカル(ファイトケミカル)の1つ、ナスニンが含まれています。
- ・カリウム
摂り過ぎたナトリウム(塩分)を体外へ排出し、筋肉や神経の働きを調整してくれます。
- ・ナスニン(アントシアニン)
高い抗酸化作用を持ち、体内で増え過ぎた活性酸素を中和する働きがあります。
旬のパワーをムダなくいただく、昔ながらの食べ方とは?
日本では昔から、その時期ならではの野菜を食卓に取り入れることで、旬のパワーを健康維持に役立ててきました。また、古くから親しまれてきた食材の食べ方や食べ合わせには、昔の人が経験から得てきた知恵が詰まっています。
日本人が暮らしの中で受け継いできた昔ながらの食べ方から、旬のきゅうりやなすのパワーを取り入れ、夏を元気に過ごすヒントにしましょう。
<きゅうりのおすすめの食べ方>
水分とカリウムを同時に摂取できるきゅうりは、昔から夏の涼として重宝されてきました。きゅうりに味噌をつけて食べる「もろきゅう」は、熱中症予防に摂りたい塩分も同時に摂ることができます。
また、きゅうりには、ビタミンCを破壊するアスコルビナーゼという成分が含まれています。アスコルビナーゼは酸に弱いため、お酢と一緒に「酢の物」で摂ることで、他の食材のビタミンCを破壊する作用を抑えられます。
<なすのおすすめの食べ方>
日本の伝統的な、「ぬか漬け」は、なすを皮ごと食べることで、ポリフェノールをムダなく摂取できます。また、ぬかに漬けることで疲労回復に良いビタミンB1が増えるため、夏バテ予防におすすめです。なすに含まれるポリフェノールは水溶性のため、あく抜きは水にさらさず、塩もみして行いましょう。
なすはきゅうりと同様、水分が豊富な野菜で、体を冷やす作用があります。皮に含まれるポリフェノールには抗酸化作用があり、紫外線によって発生する不調の原因、活性酸素を抑制してくれます。
旬の夏野菜とともに、伝統的な夏を過ごそう!
お盆について正しく理解し、正式な方法でご先祖様をお迎えすることは、日本古来の文化を守り、次の世代へつないでいくことにつながります。また、古くから日本の家庭が取り入れてきた“食材の旬のパワー”を知ることで、暮らしの知恵を取り入れることができます。今年の夏は、きゅうりとなすを通して日本の伝統文化と暮らしの知恵に触れてみましょう。
-
プロフィール
亀崎 智子(かめざき さとこ)
「食べ方」「出し方」をお伝えする料理教室「かめごはんの料理教室」主宰。
管理栄養士 ・ 中級食品診断士 ・ ジュニア野菜ソムリエなど食に関する講演や記事執筆・監修、体の本来の機能を取り戻すお手伝いをするオステオパシー整体など体の内と外を整えて元気に過ごせるサポートを行っている。