まるで魔法のように、ほんのひと振りするだけで料理の味を劇的に変える「スパイス」。その中でも「コショー」「ナツメグ」「クローブ」「シナモン」は“世界4大スパイス”として知られています。スパイスを求めて欧州からアジアなどを目指した15世紀の大航海時代や、さらに古くはミイラが作られていた時代にさかのぼるほど、スパイスの歴史は古く、長い間人々を魅了してきました。
そんなスパイスのもつ歴史的背景に知的好奇心をくすぐられ、中学生のころから興味を持っているという料理研究家のヤミーさんに、4大スパイスの魅力について伺いました。
スパイス1つで料理の国籍が変わる!?
食材の“クセ”をおいしさに変える
「スパイス」と言うと外国のもののように聞こえますが、実は和食に欠かせないしょうがやわさびもスパイスです。国によってよく使われるスパイスはさまざまで、スパイスの違いはいわば“国籍の違い”。たとえば同じチキンソテーでも、スパイスを変えるだけで、いろいろな国の味に変化します。
そして、においや食感など、食材が持つ独特のクセのようなものをおいしさに変えるのもスパイスの大きな役割です。ただし、スパイスを使用するときに気を付けてほしいのが、入れ過ぎは禁物!ということ。あとから調整できるように、少量ずつ使うのが鉄則です。
オレガノ、バジル、パセリ、ローリエ、ローズマリーなどの葉や花の香りが特徴のハーブ(香草)もスパイスの1種。ハーブの中でも食用できるものがスパイスとして使われています。
今回紹介する“世界4大スパイス”は、世界を変えたものとして知られています。その昔、香辛料はとても貴重で、金と同じくらいの価値を持っていたのだとか。そんな4つのスパイスについて紹介していきます。
「コショーを嫌いな人はいない」
4大スパイスの中でも“別格”の存在感
「コショー」は歴史を変えたスパイスとして、肉・魚・野菜と多くの国の料理に使用されています。数あるスパイスの中でも抜群の知名度と人気を誇り、「コショーを嫌いな人はいない」と言われるほどで、その存在感は4大スパイスの中でも別格でしょう。
食材のにおいやクセなどを抑えてくれるほか、ほんの少し加えるだけで料理全体の味を引き締めてくれる効果も。辛さがありますが、量を調整すれば子どもから大人までみんなで楽しめる世界を代表するスパイスです。
コショーは、つる性の植物で実を乾燥させて使いますが、その加工の違いから3種類に分けられます。
- ●グリーンペパー
緑色の実をフリーズドライにして乾燥させたもの。さわやかな香りが特徴で、辛さはほとんどない。
- ●ホワイトペパー
実の果皮を取り除き乾燥させたもの。おだやかなうまみのある香りが特徴。
- ●ブラックペパー
成熟した実を果皮ごと乾燥させたもの。ピリッと刺激的な辛さと香りが楽しめます。
同じくスパイスとして親しまれている「ピンクペパー」は、「コショウボク」という植物の果実を乾燥させたものが一般的で、コショーとは別のものです。
<おすすめの使い方>
ホワイトペパーはクリーム系など見た目が白い料理などに色をつけたくないときにおすすめ。白身の魚や鶏肉などと組み合わせても◎。
ブラックペパーは強いうまみと風味を生かし、赤身の牛肉やクセのあるラム肉などにたっぷり使っても。
甘い料理にも意外とよく合い、ココアやクッキーなどに入れると甘さが引き立ちます。
ひき肉料理の定番スパイス「ナツメグ」
お菓子やお酒にも合う“使い勝手の良さ”が魅力
「ナツメグ」は日本ではハンバーグに入れるスパイスとして多くの人になじみのあるスパイスです。海外に目を向けてみると、ハンバーグ以外にも、ソーセージやミートソース、ミートパイなど世界各国のさまざまなひき肉料理に使われています。
ほかにもいろいろな料理やお菓子、お酒にもよく合う“使い勝手の良さ”がナツメグの特徴。強い香りを持っていて、一度に大量に使用すると薬くさくなってしまうため少量ずつ加えましょう。じっくり加熱することで、香りがより引き立ちます。
ナツメグはニクズク科の雌雄異株の熱帯性常緑樹の種子から作られます。種子のまわりにはメースと呼ばれる網目状の赤い皮があり、その内側の黒い種子を割った中の部分をおろし、パウダー状にしたものがナツメグです。メースもナツメグに似たスパイスとして、焼き菓子などのお菓子類に使用されています。
ナツメグは一度に大量に摂取すると中毒を引き起こす場合があります。ナツメグに限らず大量に食べると危険なスパイスもありますから、おいしいからと言って食べ過ぎには注意しましょう。
<おすすめの使い方>
定番のひき肉やじゃがいも料理のほか、乳製品との相性も良く、ホワイトソースやシチューにもよく合います。かたまり肉に“まぶす”よりも、ひき肉などに“混ぜ込む”使い方がおすすめ。クッキーやビスコッティなどや、ドライフルーツたっぷりの焼き菓子に加えると香りやうまみを引き立ててくれます。
独特の香りを放つ「クローブ」
ほろ苦さと甘みを上手に引き立ててうまみアップ
「クローブ」は漢方薬のような独特のにおいを持っていて、こちらも使い過ぎには注意が必要なスパイスですが、その強い香りに肉のくさみを抑える効果があります。和食に合わせるには香りが強いため、4大スパイスの中では、日本人にあまりなじみがないものかもしれません。
ナツメグと同じくインドネシアのモルッカ諸島の原産で、熱帯性常緑樹の1種。その開花直前のつぼみを乾燥させたものがクローブになります。ホールタイプとパウダータイプがあり、料理によって使い分けます。ナツメグやシナモンを代用しても良いかもしれません。
<おすすめの使い方>
デミグラスソースやブラウンソース、ラムや牛肉のカレー、煮込み料理などに加えると甘みを引き立て、うまみが格段とアップします。マリネやピクルスに加えるのも◎。
ホットワインなど、強い香りを生かした料理に。
フルーツとの相性もよく、ジャムやコンポートを作るときにほんの少し加えると、甘みを引き立てて深みを加えてくれます。
ミイラが作られていた時代に防腐剤としても使用されていた「シナモン」
素材を邪魔しない、ほど良い存在感の万能スパイス
「シナモン」の歴史は長く、古くはミイラの防腐剤として使用していたとされていたり、日本では正倉院の中から見つかっているなど、世界で最も古くから知られているスパイスの1つです。
クスノキ科クスノキ属の熱帯性常緑樹の中でも、芳香性にすぐれた樹皮を乾燥させたものがシナモンになります。常緑樹のうち、スパイスに利用されるものが数種類あり、代表的なのが上品な味わいで高級感のある“セイロンシナモン”と、強い辛みも感じられカレーなどにも使用される“カシア”です。ホールタイプ(スティック)もしくはパウダータイプで販売されています。
シナモン自体にもほんのりとした甘みに加え、素材の甘みも引き立てる効果があります。アップルパイのイメージが強く、お菓子によく使われますが意外と万能。肉・魚料理や、フルーツにもよく合います。しっかりとした香りを持ちながら、素材を邪魔しない、ほど良い存在感が持ち味。アップルパイやカプチーノの上に振りかける以外にも、実は使い勝手がいろいろあるスパイスなのです。
日本で昔から“ニッキ”としてお菓子の八つ橋などに使用されてきたものは、厳密にいうとシナモンとは異なる種類の木から取れたもの。カシアに近い香味だとされています。
<おすすめの使い方>
角煮に加えると肉の臭みがおさえられ、うまみを引き立てます。ミートソースに加えて、いつもとは一味違う深みのある味わいを楽しむのもいいでしょう。中華料理のスパイスとしても使えるので、八角がない場合にシナモンスティックを代用することもできます。
味の変化が欲しいときに炊き込みごはんや肉じゃがに加えると、一味違った楽しみ方ができます。
コショーの代わりにナツメグ・クローブ・シナモンを
毎日の食卓でスパイスを上手に使いこなすポイント
普段使い慣れていないと、スパイスは難しく思われがちですが、いつも使っているコショーもスパイスであることを考えれば、そんなに難しいものではありません。よくあるお悩みに「スパイスを購入しても使いこなせず、余ってしまう」ということがありますが、どんなメニューでもいいので、他の料理にも使ってみると案外おいしくでき上がったりして、徐々に使いこなせるようになっていくものです。毎日の料理にどんどん使ってみてほしいと思います。
まずはコショーの代わりに4大スパイスのナツメグ、クローブ、シナモンを使ってみましょう。オムレツや卵焼きなどの卵料理や、お肉料理、チャーハンや焼うどんなどを作るときに、コショーの代わりに他のスパイスを入れるだけでも、味が大きく変わり新しいスパイスの楽しみ方が発見できるはずです。
4大スパイスをはじめとして、スパイスにはたくさんの種類がありますが、必ずしも一度に多くを揃える必要はありません。まずは気になる数種類のスパイスがあれば十分です。ポイントは種類の豊富さよりも、毎日の料理にスパイスを頻繁に取り入れること。そうしているうちに、特徴や食材との相性が掴めるようになり、だんだんとみなさんも奥深いスパイスの世界の虜になっていくと思います。
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プロフィール
ヤミーさん
世界の料理を食べ歩く料理研究家として各メディア、商品開発など幅広く活躍中。「スパイスブログ」で世界各国の料理を、スパイスを使って簡単に作れるレシピを公開している。主宰する料理教室「Yummy‘s Cooking Studio」は、スパイスの使い方を学べるのも人気。