食事は生きていくうえで非常に大事なもの。食事を楽しむうえで、味覚、嗅覚、視覚、聴覚、触覚の五感が使われていますが、中でも味覚は非常に大事な感覚です。今回はそんな「味覚」の種類や感じ方、味覚障害の原因などについて見ていきましょう。
味覚とはそもそも何? 五つの基本味について
食事の味わいを感じるためには「味覚」が重要です。味覚の種類としては、「甘味」、「苦味」、「塩味」、「酸味」、「旨味」があり、この5つの味は「基本味」や「五味」と呼ばれます。
基本味は、口の中、特に舌や咽頭(のど)、軟口蓋(上あご)に多く存在する「味蕾(みらい)」によって受容され、味神経を介して脳に伝わります。
一方、「辛味」や「渋味」などは、口の中で生じる痛みや温度など触覚の要素を多く含み、基本味とは区別されています。
なお、国内外の研究により「脂肪味」や「カルシウム味」「デンプン味」が6番目の味覚となる可能性も報告されているなど、今後の研究によって基本味の定義は変わっていく可能性もあります。
また、以前は舌の場所によって甘味や苦味などを感じる位置が決まっているという「味地図(味覚地図)」があると信じられていましたが、現在では一つひとつの味蕾が基本味全てを感じられることがわかっており、この説は否定されています。
ちなみに、味覚受容体は口の中だけではなく、腸管や脳内にも存在することが報告されています。
「おいしい/おいしくない」はどうやって決まる?
味覚は単体で感じるものではなく、異なる味覚の組み合わせによる相乗効果や、いずれかの味が弱まったり強まったりする抑制効果/対比効果もあるなど相互作用があります。
また、食べ物の味わいは、味覚だけではなく、鼻から感じる香りや、目で見た色彩、サクサク、ふわふわ、パリパリ、といった耳からの音や食感として得られる触覚など他の感覚にも大きな影響をうけます。
さらに、味覚やその他の感覚以外に、それまでに重ねてきた食経験にも大きく左右されます。たとえば、出身地域や家庭の味つけ、親の嗜好などが、味の好みに影響していることを自身の経験から感じている人も多いのではないでしょうか。
「おいしい/おいしくない」はそういったさまざまな要因により、最終的に脳が判断することで個人差があるものなのです。
関連リンク
大人ができる子どもの味覚の育て方
味覚と健康はつながっている、さらに文化的な側面も
味覚は単に味の好みや楽しみのためにあるわけではなく、健康や生命維持のためにも重要なものです。
たとえば、甘味は本能的に必要としている糖分を得られることを、旨味はカラダを作るために必要なアミノ酸などがその食品に含まれていることを知らせるなど、基本的な健康維持に関わっています。ただし、食事が豊富な現代にあっては、おいしいと感じるものだけを食べると偏食になってしまい、栄養バランスが崩れるおそれがあります。
また、酸味は腐敗の、苦味は有毒な物質の危険信号として認識され、小さな子どものうちはこれらを不快な味として感じ、吐き出すことで身を守ろうとします。一方、酸味や苦味を感じる食品が必ずしも危険ではない現代では、大人になるにつれ、「この味は安全」と学習を繰り返し平気で食べられるようになったり、むしろ苦味が強いコーヒーやビール、お茶などの嗜好品を好んで摂取するようになったりした経験は、多くの方がお持ちではないでしょうか。こういった酸味や苦味の受容には歴史的、文化的な側面もあると考えられます。
味覚を感じられなくなる原因は?もし味覚に異変を感じたら・・・
味覚を感じられなくなる原因としてよく知られているのが、亜鉛不足です。
味蕾は味細胞と呼ばれる細胞の集まりで、約10日で次々と新しい細胞と入れ替わっていますが、偏った食生活などで亜鉛が不足すると味蕾の新陳代謝が十分に行われなくなるため、味蕾が減り、味覚に異常があらわれます。
亜鉛不足を予防するには、バランスの良い食生活を送りましょう。牡蠣、ごま、海藻、大豆、ブロッコリーなどに多く亜鉛が含まれています。ビタミンCやクエン酸、たんぱく質は吸収効率を高めます。一方、加工食品に含まれるリン酸塩などは亜鉛の吸収を阻害します。また、アルコールの摂取で亜鉛の排泄量が増加するので注意が必要です。
亜鉛不足の他には、糖尿病や貧血、ストレスなどさまざまな疾患の影響により味覚障害が生じることも知られています。降圧薬や精神疾患薬、鎮痛・解熱薬、抗アレルギー薬、消化性潰瘍治療薬など薬の副作用や、頸部から頭部にかけてのがんで放射線治療の影響、神経障害などでも味覚障害が起きます。風邪などの鼻づまりによる嗅覚の低下で味覚が低下したり、ドライマウス(口の中の乾燥)や加齢によっても味を感じる機能が低下したりします。最近は新型コロナウイルス感染症の影響で味覚・嗅覚に障害が出たという報告もありました。
もし味覚に異変を感じたら、可能性のある原因によって異なりますが、まずは耳鼻咽喉科で相談するのがよいでしょう。味覚障害だけではなく、嗅覚障害で味を感じにくくなっている場合もあるかもしれません。ただし、頭部外傷や脳神経障害によるものであれば脳神経外科、糖尿病があれば内分泌内科になります。膠原病などの場合もありますので、内科でもよいかもしれません。
味覚について意識することは、健康にもつながる
年を重ねるにつれて味覚の変化を感じているという人も少なくないのではないでしょうか。加齢により味蕾が衰えるなどして味覚を感じにくくなると、いつの間にか濃い味を求めるようになり、塩分や糖分の摂取量が増えるなどして、さまざまな病気につながることが考えられます。
反対に、昔は濃い味つけの食べ物が好きだった人も、年をとるにつれてあっさりしたものを好むようになる場合があります。これは、唾液が減ることででんぷんを分解する酵素の働きが低下したり、入れ歯のために噛むことが苦手になったりして消化能力が衰え、胃に負担の少ない食べ物を好むようになるからと言われています。また、エネルギー代謝が衰えて汗をあまりかかなくなるため、若い頃に比べて塩分の必要量も減ります。
このように体質や体調によって味の感じ方も変わってきます。健康を意識するには、早めに塩分控えめの味に慣れるのも大事かと思います。
普段「味覚」を意識していない人でも、あらためて味覚について考えることは、健康管理にも役立ちます。
関連リンク
減塩に取り組むならまず味覚改善⁉ 「濃い味舌」を解決しよう
-
執筆者プロフィール
清益 功浩(きよます たかひろ)
医学博士。日本小児科学会認定専門医、日本アレルギー学会認定専門医・指導医。医学生時代から免疫に興味を持ち、京都大学ウイルス研究所のがん遺伝子分野で免疫不全ウイルスについて学ぶ。他にも、メンタルヘルスマネジメントを始め、法律、経済、化学などについて多岐にわたる資格を有する。
※本ページの記載内容は記事公開時点の情報に基づいて構成されています。