20年ほど前、スーパーの魚売り場で「魚を食べれば頭が良くなる」といった歌詞の曲が流れ、一世を風靡していたことをご記憶の人も多いのでは? でも、「頭が良くなる」って本当なのでしょうか。今回は、脳にとって必要な栄養について見ていきましょう。
魚を食べると頭が良くなるって本当?
冒頭でご紹介した「魚を食べれば頭が良くなる」は本当なのかと問われると、実は非常に難しいところ。脳の栄養素は99%以上が「糖質」ですが、糖質は魚に多く含まれている栄養素ではないからです。
それでは、「No」といえば良いではないか?と思われた人もいるかもしれませんが、魚に含まれている不飽和脂肪酸のドコサヘキサエン酸(DHA)やエイコサペンタエン酸(EPA)は血液をサラサラにする効果がある(血管壁の収縮、血小板の凝集)といわれており、脳の血液のめぐりが良くなれば、頭が冴えるということも考えられます。
ちなみに、このDHAとEPAは他にも体に有用な働きがたくさんあり、アレルギー疾患・高血圧・動脈硬化・脂質異常症・脳卒中・皮膚炎の予防と改善にも効果が期待できるとされています。
先述の魚売り場でかかっていたあの曲も、良く聞くと「(魚は)体にいいのさ」という歌詞も出てきます。実際には、こちらのほうが栄養学的な実情には近いのです。
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実際に脳がよろこぶ栄養素・食べ方といえば?
繰り返しになりますが、脳が栄養源として使えるのは、基本的には「糖質」です。
脳は体の重量の約2%程度、エネルギー消費は約18%といわれています。脳のエネルギー消費量はとても大きいのです。この分は是が非でも糖質として食事から摂取したいところ。
糖質をすっかり絶ってしまうような極端なダイエットもありますが、そういったものは脳へのエネルギー補給ができなくなってしまいます。糖質が不足すれば、糖新生といってアミノ酸(たんぱく質)などを体内で糖質に変換することはできますが、糖新生はエネルギー産生の経路を逆にたどるようなものなので、体に負担がかかります。
糖質をエネルギー源に変えるために必要なのはビタミンB群。ビタミンB群は水溶性のビタミンですので、「摂りだめ」はできません。とくに必要なのは「ビタミンB1」。豚肉、レバー、米の胚芽部分に多く含まれています。糖質を摂ってもビタミンB1が不足していると疲れやすくなります。これらの食品をこまめに摂取するように意識しましょう。
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疲れやすい、やる気が出ない……そんな時にもバランスの良い食事を
頭がうまく働かないと感じたり、疲れやすい、やる気が出ないという時は、生活のリズムが乱れていることが大きな原因だと考えられますが、もう1つは、栄養素の過不足の問題かもしれません。
日本人は「過栄養」と「低栄養」の問題を両方抱えています。糖質、脂質などは多すぎる人が多く、ビタミンやミネラルなどは少なすぎる人が多いといわれています。また、高齢者などは、たんぱく質が少なすぎることも問題とされています。
脳に糖質が満たされて活発に動いたとしても、糖質だけでは栄養が偏ってしまい、体全体が活発に動くことができません。集中力ややる気にも関係するアドレナリンやセロトニン、ドーパミンといった神経伝達物質は必須アミノ酸から作られるため、食事から良質なたんぱく質を摂取する必要があります。ビタミンやミネラルも神経伝達物質の生成に必要ですし、脳に酸素を運ぶためにはミネラルのひとつである鉄が必要不可欠です。
結果的に、体全体がよろこぶ食事、すなわち「バランスの良い食事」を摂ることが、脳もよろこぶ食事の摂り方といえるでしょう。
疲れやすいな、やる気が出ないなと思ったら、「一汁三菜」の基本に立ち返って、主食(ご飯、麺、パンなど)、主菜(肉、魚、卵、豆腐のおかず)、副菜(野菜のおかず)が揃った食事が1日1回以上、できているかを振り返ってみてください。
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執筆者プロフィール
平井 千里(ひらい ちさと)
小田原短期大学食物栄養学科 准教授。女子栄養大学栄養科学研究所客員研究員。女子栄養大学大学院 博士課程修了。名古屋女子大学 助手、一宮女子短期大学 専任講師を経て大学院へ進学。肥満と栄養摂取の関連について研究。前職は病院栄養科責任者(栄養相談も実施)。現在は教壇に立つ傍ら、実践に即した栄養情報を発信。
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