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介護アドバイザーが教える高齢者のための食生活の備えとは?

介護アドバイザーが教える高齢者のための食生活の備えとは?

在宅での介護生活において、入浴などのケア同様、徐々に問題となるのが食事。「うまくかめない」「うまく飲み込めない」といった、高齢ならではの困りごとが口の中にも出てくるからです。All About「介護」ガイドで介護アドバイザーの横井孝治さんに、高齢者の食事問題や介護生活における「食」の心構えについて伺いました。

歳を取ると気になる口腔内の衰えはなぜ起きる

高齢者の口腔問題と聞くと、皆さんは何をイメージするでしょうか。介護アドバイザーの横井さんによると、高齢者は口の中で3つの力が低下すると言います。1つ目は“味わう力”。次に“かむ力”、3つ目は“飲み込む力”です。

①味わう力

横井さん「まず1つ目は、“味わう力”が弱まること。つまり味覚の低下です。味覚には、甘味・酸味・塩味・苦味・うま味といった5つの基本味がありますが、高齢になり味を感じる能力が衰えてしまうと、食事そのものが楽しめなくなり、食欲低下につながりやすいのです。」

②かむ力

横井さん「2つ目は “かむ力”、咀嚼する力の低下です。私たちは口に入れた食物をかみ砕き、すりつぶして、唾液と混ぜ合わせて飲み込みやすくしています。その力が弱まるのです」

咀嚼機能の低下は、どんなきっかけで起こるのでしょうか。横井さんは、理由として“歯の衰え”を挙げています。

横井さん「働き盛りの世代でも問題となっている歯周病(※)や虫歯により、歯は加齢とともに欠損していきます。歯の本数が揃っていない問題以外にも、義歯が自分の口に合っていないと、せっかく歯を入れたとしても食べ物をすりつぶしたり、かみ砕いたりすることができません。

※歯周病=細菌の感染によって起こる炎症性疾患のこと。歯と歯肉の境目の清掃が行き届かないと、多くの細菌が停滞し、歯肉の辺縁が「炎症」を帯びて赤くなったり、腫れたりする。進行すると歯周ポケットと呼ばれる歯と歯肉の境目が深くなり、歯を支える土台が溶けて歯が動くようになり、最終的には抜歯をすることに。

関連記事:20代でも2割以上は歯周病にかかっている!? ちゃんと対策をしないと…

人間は、口の中も外も筋肉で成り立っています。“顎・舌・口などの筋力の低下”があると、歯を使ったかみ砕きやすりつぶしだけでなく、今まで難なく食べていた大きな食物や硬い物が食べにくくなるのです」

では、最後のひとつは何でしょう?

③飲み込む力

横井さん「最後に“飲み込む力”です。咀嚼した食べ物や飲み物を食道へと飲み込んでいく力が弱くなる。これが間違って気管の方に食べ物が入ってしまうと、医療系のテレビCMでよく聞かれる誤嚥性肺炎(※)のもとになるのです」

※誤嚥性肺炎=嚥下機能の低下した高齢者、脳梗塞後遺症やパーキンソン病などの神経疾患や寝たきりの患者に多く発生する。

横井さんによると、飲み込む力の低下にもいくつか理由があるのだそう。

横井さん「飲み込む力が失われる理由は、大きく分けて3つあります。
理由1は“唾液が減る”から。高齢者は飲み込むのに必要な唾液の量が減るため、嚥下がしにくくなるのです。

理由2は “筋力の低下”。舌の筋肉が弱くなるため、食べ物を喉に送りにくくなるのです。また舌だけでなく、今度は食物が送られた先の食道の筋肉も衰えるため、食道の中で胃に食べ物を送りづらくなります。

理由3は“嚥下反射の衰え”です。嚥下反射とは、食べ物を喉から食道に送る際、反射的に気管にフタをする動きのこと。この動作が衰えると食べ物が気管に入りやすくなるので、食事中にむせる高齢者が多いのです。

この他の理由としては、口内炎や咽頭がんなどにより、食物の通り道がふさがれてしまうからというのもあります。また、脳血管疾患やパーキンソン病などの場合は、飲み込みに必要な器官の神経や筋肉に異常が出ることで、嚥下がしにくくなるのです」

いつまでもおいしく食事をするために、家庭の中でできることとは

かむ力、飲み込む力が衰えると、健康面でさまざまな影響が出ると横井さんは語ります。
主な影響は以下の4つです。

  • ①食事が楽しくないので、低栄養になりやすい
  • ②むせるのを嫌って、水分を摂らないうちに脱水症状になる
  • ③飲み込みがうまくいかず窒息症状に陥る
  • ④誤嚥性肺炎になる

では、かむ力、飲み込む力を低下させない備えとして、私たちは何ができるのでしょうか。

横井さん「よく歯医者さんで言われていることですが、“8020運動”の徹底ですね。“8020運動”は、『80歳になっても20本以上自分の歯を保とう』というもの。歯は一生で6回ほど治療すると寿命になりますから、日々の歯磨きや口腔ケアを怠らず、虫歯や歯周病から歯を守ることが肝心です。

その他、介護施設などでよく行われている『舌・喉・口を動かす発声練習』も効果的です。口を大きく開けて『あえいおう』『パタカラ』などと、ゆっくり大きく発音してみましょう。また飲み込みに関する筋肉は首に集中しているので、コリをほぐすために首の体操をすることもおすすめです。前後左右に倒し、ほぐれた後にゆっくりと首を回します。介護施設では、発声練習や体操が食事の前に行われています」

食べる力が低下した時、気を付けたい食事の面

それでは、もし食べる力が弱まってきた場合は、どのような食事をすればよいのでしょうか?

横井さん「圧力鍋などで、食べ物自体をやわらかくしてあげることです。おすすめは、電気で使える圧力鍋。小型のものも市販されていて、台所の邪魔にならないのが利点です。

また忙しい方の場合は、“ユニバーサルデザインフード(UDF)”を利用するのもよいでしょう。UDFは食べる人のかむ力に合わせて、やわらかさが4段階で設定されています。介護食を賢く利用することで、安全で栄養バランスの取れた食事を手軽に用意することができますし、カレーや肉じゃが、ハンバーグといったなじみ深い味の商品もあるので、家族と同じメニューを食べながら一緒に食卓を囲む楽しみも得られます。

飲み物については、必要に応じて“とろみ剤(とろみ調整食品)”を使うとよいですね。むせるのを防ぐことができます。

介護食にちょっと抵抗のあるご家族に伝えたいこと

食に強いこだわりを持つ高齢者は多いです。通常の食事から介護食に移行した場合、気になるのは見た目の物足りなさ。もしもご本人が目の前のメニューを見た時、マイナスの印象を感じてしまったら、食事そのもので印象を覆すことはできるのでしょうか。

横井さん「ミキサーやジューサーなどを使って流動食のようなものを作る場合は、加工を行う前の状態を一度お皿に置いてみたり、写真を撮ってご本人に見せたりするとよいでしょう。『自分だけ何だか違うものを食べている』『よくわからないものを食べさせられている』などと、ご本人が不信感や不快感を持たないように納得して食べてもらうことが必要です」

また介護食の導入は勇気の要るものです。ご家族が「ウチの親はそんなに衰えていない」と思い込んでいる場合もあるからです。そのような場合、横井さんはこんなふうに声をかけたいと言います。

横井さん「最優先されるべきは、ご本人に安全、安心に食事を楽しんでもらうことです。食事の見た目のインパクトの問題は確かに大きいですよね。でも普通食を食べる力を失っている方に対して、無理に咀嚼や嚥下に負担のかかる食事を勧めることは、残酷な気がしてしまいます。

ご本人の身体の状態に応じて、食事が嫌いにならないように工夫することは、日常生活でできる最大の親孝行だと思います」

昨今のゼリー食・ミキサー食は、皆さんの想像以上に風味が損なわれておらず、形態こそ一般食と違えど、味わいの点で遜色がありません。ハウス食品の『ラクケア』をはじめとしたUDFの場合は、さらにやわらかさが4段階。一般食と見た目があまり変わらないものから、かむ力の衰えた方にもぴったりな形態まで選べるので便利です。

1日に3度巡ってくる食事の時間。よりよい生活を送るためには、お口の状態に合った食事形態が必要です。時には昔の思い出話などをしながら家族で一緒に食卓を囲んで、ゆったりとした食生活を送りたいですね。

※本ページの記載内容は記事公開時点の情報に基づいて構成されています。

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