2022年7月18日は「海の日」。海に囲まれ、海の恩恵を受けながら発展してきた日本ならではの祝日です。海の栄養をたっぷり含んだ食材といえば海藻類。“昆布”は7〜9月が収穫期で、この時期は生でいただけるほか、乾燥させて出汁昆布として用いる和食の基本でもあります。“わかめ”はサラダなど生食やお味噌汁の具材として、海藻類の中でも最も食卓に上る食材です。今回は“昆布”や“わかめ”に含まれる“栄養素と体への働きかけ”、“美味しさと栄養素がアップする夏のおすすめメニュー”などを和食文化継承リーダーとしても活躍されている野口知恵さんに伺いました。
“昆布”、“わかめ”を食用にしてきた理由は日本人の体質にある?
海藻類を日本人が常食するようになった理由のひとつは体質にあると言われています。海に囲まれた島国で、古くから海藻類を食べている日本人は北米人に比べ、海藻を消化しやすい腸内細菌を持っていることが2010年の「Nature」(注1)で発表されました。消化できることで、古来から食用にできたことがわかります。
古代から日本で食されてきた昆布やわかめ。7〜9月が収穫期の“昆布”には成長期に欠かせないカルシウムと食物繊維がたっぷり含まれ、出汁として用いることで、旨味成分が減塩の役割も。
“わかめ”は、春は生食、その他の季節も塩蔵で一年を通じて親しみのある食材です。海の栄養を吸収して育つので、ミネラル豊富。いずれも私たちの食事に欠かせない栄養素や和食のおいしさの根本にある風味や旨味を生み出しているのです。
“昆布”、“わかめ”の栄養素と体への働きかけ
ミネラル豊富なイメージがある昆布とわかめ。具体的にはどのような栄養素があり、人の体にどう働きかけるのでしょう。昆布やわかめに含まれる栄養素の特徴はカルシウムやマグネシウム、鉄、ヨウ素などのミネラルと海藻類特有の水溶性食物繊維やビタミンKなど。
昆布は日本食の基本である、出汁のもととなる旨味成分のグルタミン酸と呼ばれるアミノ酸を豊富に含み、わかめは独特のぬめり成分である水溶性食物繊維を生でいただけるメリットがあります。
【昆布、わかめに含まれる栄養素】
<栄養素の一日あたりの食事摂取基準>
*摂取量は国民健康栄養調査令和元年
|
18~29歳推奨量 |
生わかめ50g |
真昆布20g 水煮(水戻し) |
男性 |
女性 |
カルシウム |
800mg | 650mg | 50mg | 40mg |
マグネシウム |
340mg | 270mg | 55mg | 24mg |
鉄 |
7.5mg | 6.5mg(月経なし) 10.5mg(月経あり) | 0.4mg | 0.1mg |
ヨウ素 |
130μg | 130μg | 800μg | 3800μg |
食物繊維 |
21g以上* | 18g以上* | 1.8g | 1.7g |
ビタミンK |
150μg | 150μg | 70μg | 6μg |
*食物繊維は目標値。目標値は食物繊維総量の為、総量で表示
*生わかめ50g、真昆布20gあたりの栄養素(注5)
健康管理も期待できる、“昆布”、“わかめ”のある食生活
健康な体は良い腸内環境が影響することは今や常識になりつつあります。海藻類を日常の食事に取り入れることでの腸活や、調味料を過剰に摂取しない減塩の側面からのメリットについてみていきましょう。
<年齢別食物繊維の摂取量と目標摂取量>
|
男性 |
女性 |
食物繊維の 実際の摂取量 |
食物繊維の 目標摂取量 |
食物繊維の 不足量 |
食物繊維の 実際の摂取量 |
食物繊維の 目標摂取量 |
食物繊維の 不足量 |
20〜29歳 |
17.5g | 21g以上 | 3.5g | 14.6g | 18g以上 | 3.4g |
30〜39歳 |
18.3g | 21g以上 | 2.7g | 15.9g | 18g以上 | 2.1g |
40〜49歳 |
18.3g | 21g以上 | 2.7g | 16g | 18g以上 | 2g |
50〜59歳 |
19.4g | 21g以上 | 1.6g | 16.8g | 18g以上 | 1.2g |
60〜69歳 |
20.6g | 20g以上 | | 19.8g | 18g以上 | |
70〜79歳 |
21.9g | 20g以上 | | 20.5g | 20g以上 | |
80歳〜 |
20.3g | 20g以上 | | 18g | 20g以上 | 2g |
●腸内環境への影響
食物繊維に関しての調査では、18〜64歳の男性で21g/日、女性で18g/日が食物繊維接種の目標値ですが、男性の摂取量平均は19.4g/日、女性で17.5g/日で、わずかに目標値に満たない結果が出ています。
また、児童に関しては学校給食がある日は目標量に達していない者は45%、学校給食がない日は65%という結果も。普段の食事で子どもたちの食物繊維が不足がちなことが分かります。(注6)
海藻類に含まれる食物繊維は前段で触れたように水溶性食物繊維。日本人の6人に1人は糖尿病の傾向があるという調査結果もあり、(注7)血糖値の急上昇などを予防するためにも子どもの頃から摂ることが大切です。また善玉菌のえさになり腸内環境が改善されるので、子どもにも大人にも大切です。
●減塩につながる旨味成分
世界保健機構(WHO)が勧告する成人のナトリウム摂取量は2g/日(食塩相当で5g/日)ですが、全世界の平均摂取量は3.95g/日と推定。ナトリウムは高血圧、心血管疾患、脳卒中などのリスク要因です。そこで旨味成分であるグルタミン酸が豊富な昆布を用いることで減塩につながります。(注8)
美味しさと栄養素がアップする夏のおすすめメニュー
たとえばわかめときゅうりの酢の物など、旬の食材同士を食べ合わせると美味しさも栄養の吸収も増すという食の慣習は現代人にもあるもの。また、昆布から出汁をきちんととることで料理がさらに美味しくなる具体的なメニューを紹介します。
【昆布を使ったメニュー】
-
●夏野菜の塩昆布ナムル
まず、ミニトマト(半分に切る)、きゅうり(乱切り)、なす(1口大)を塩昆布で和えます。水分たっぷりな夏野菜を浅漬けに仕上げることで水分補給になり、さらに昆布でミネラルも補給でき熱中症予防にもなります。ごま油の香りが良く、脂溶性のビタミンKの吸収も助けてくれます。
-
●時短味噌汁
器にとろろ昆布に絹ごし豆腐とねぎ、味噌を入れてお湯を注ぐだけで簡単味噌汁。時間のない時も昆布のミネラル、豆腐のたんぱく質が摂れます。発酵食品である味噌には善玉菌が入っているので、そのエサとなる昆布の食物繊維と摂ることで慌ただしい時にも腸を整えられるメリットが。
-
●塩昆布ポテトサラダ
茹でたじゃがいもに塩昆布と枝豆とかつお節、マヨネーズを入れて混ぜた和風ポテトサラダ。昆布に含まれる鉄分はじゃがいもに含まれるビタミンCとともに摂ることで吸収率が上がります。
-
●出汁昆布ときのこのアヒージョ
にんにくのみじん切りとオリーブオイルを熱し、香りがでたら、出汁を取った後の昆布(2cm角に切る)、しいたけ、しめじなどお好みのきのこ、ミニトマトを入れて加熱。昆布に含まれるカルシウムは、きのこのビタミンDとともに摂ることで吸収率があがります。
【わかめを使ったメニュー】
-
●酢のもの
暑い時には薬味をたっぷり入れて食欲増進効果とお酢の疲労回復パワーでじめじめを乗り切りましょう。わかめ、きゅうり(薄切り)、大葉(千切り)、みょうが(千切り)を甘酢(お酢・砂糖・塩)で和えるだけ。ミニトマトを入れてもさっぱりとして美味しいです。出汁を取ったあとの昆布を細切りにして入れても。お酢はカルシウムの吸収を助けてくれます。
-
●わかめご飯
わかめと、じゃこ、梅干しを入れて炊くだけで栄養満点なご飯ができます。できあがりにごまをまぜると、あっさりと夏向きに。熱中症予防の為にミネラルが不可欠な夏、ごはんと一緒に摂ることができるのもメリット。不足しがちなカルシウムの摂取もできるご飯です。
海の恵みたっぷりの昆布やわかめを日々のメニューに取り入れて、暑い夏を健やかに過ごしましょう。