「なんだか今日は思いっきり辛いものが食べたい!」……そんな気分になることはありませんか? 激辛グルメのバリエーションはどんどん増え続けています。では、なぜ辛いものはクセになるのか、辛いものを食べたくなるのはどんな時なのか。私たちが辛いものを求める理由について考えてみましょう。
そもそも「辛さ」って何? どんな種類があるの?
唐辛子がたくさん入った激辛料理。食べたら思わず「辛い!」といってしまいますよね。しかし、厳密にいえば辛さは味ではありません。
甘味・塩味・酸味・苦味・うま味の、いわゆる「5つの基本味」は、舌にある味蕾(みらい)という器官で感知します。しかし、辛さは味蕾ではなく、感覚神経にある「TRPV1(トリップ・ブイワン)」という受容体で感知しているのです。TRPV1は、痛みや熱を感じた時にも活性化される受容体。つまり、私たちは辛さを「痛み」や「熱さ」として受け取っているというわけです。確かに、辛いものを食べた時には、口の中がヒリヒリしたり、カーッと熱くなったりしますよね。
ちなみに、子どもがあまり辛いものを好まない理由も、ここにあります。人間を含む動物にとって、痛みや熱さは生命の危機につながりかねないため、本能的に避けているようです。その後、成長するにしたがって危険なものではないとわかると、だんだん慣れて食べられるようになります。
また、辛さには種類があり、含まれる辛味成分によってホット系とシャープ系の二つに大きく分けることができます。
●ホット系:唐辛子、コショー、山椒、しょうがなど
- ・食べてしばらくすると口の中が熱くなり、辛さが持続する
- ・水を飲んでも辛さがなかなかおさまらない
- ・熱に強く、煮込んだりしても辛さはそのまま
●シャープ系:からし、わさび、玉ねぎなど
- ・食べてすぐ鼻の奥がツーンとするが、すぐにおさまる
- ・水を飲むと辛さが和らぐ
- ・揮発しやすく熱を加えると辛くなくなる
辛いものに対する耐性は人それぞれですが、辛さのタイプによっても得意不得意があります。「唐辛子の辛さは苦手だけどわさびは平気」という人がいたり、普段辛いものを食べ慣れているはずのインド人やタイ人がお寿司をわさび抜きにしたりするのは、このためです。
辛いものがクセになる理由とは?
辛いものが好きな人は、より一層の刺激を求めて、どんどん辛みを足していくことがあります。これは、辛いものを食べると脳内から分泌されるβ-エンドルフィンというホルモンと関係があるようです。β-エンドルフィンはストレスを鎮めたり、幸福感をもたらしたりする効果があります。これによって、辛いものを食べた時の、ストレスとなる痛みや熱さを紛らわせることができるのです。
また、β-エンドルフィンが分泌され幸福感を覚えると、脳からはドーパミンというホルモンも分泌され、「おいしい! もっと食べたい!」と思います。ドーパミンは脳を興奮させる働きがあり、食べれば食べるほど気分が高揚するからです。
こうしたホルモンの影響から、また幸福感や高揚感を味わいたいと、辛さがやみつきになると考えられています。ますます辛さの強いものを欲して、丼が真っ赤になるほど唐辛子が入った激辛ラーメンに挑戦する人や、「〇〇倍カレー」の倍数をどんどん上げていく人も出てくるようになるのです。
さらに、唐辛子に含まれるカプサイシンなどの影響で血流が促進され、汗をかきやすくなるため、食べ終わった時は爽快感を味わえます。こうして、「辛いものを食べたら、もやもやしていた気持ちが晴れてスカッとした!」という記憶が刻まれ、次にまた食べたくなる……という繰り返しになるのではないでしょうか。
定期的に来る「激辛ブーム」は、景気と連動しているってホント⁉
ハウス食品調べによれば、1980年代中盤の第1次激辛ブームに始まり、1990年代の第2次激辛ブーム、2000年代の第3次激辛ブームと、定期的に流行が来ているのだそうです。しかも、第1次激辛ブームは円高不況、第2次激辛ブームはバブル崩壊、第3次激辛ブームはリーマンショックと、なぜか不況時に重なっているのだとか。
また、もしかしたら、温暖化などの影響で日本の気候がそれまでとは変わってきたことも原因の一つかもしれません。
というのも、日本ではもともと、辛いスパイスは薬味として使われるのが一般的でした。うどんやそばに七味唐辛子をふりかけるなど、味にアクセントをつけることを目的としていたのです。しかし、最近ではキムチ鍋のように基本の味付けとして辛味を使う料理も増えています。
料理はその土地に暮らす人が健康に過ごせるような発展を遂げてきています。例えば、東アジアや東南アジア、中南米などの暑い地域に辛い料理が多いのは、食べて発汗することで体温を下げ、食欲を増進する効果があるため辛いものが食べられてきたという経緯があります。
景気と激辛にどんな関係があるのか本当のところはわかりませんが、もやもやした社会の雰囲気やそれによって高まったストレスを吹き飛ばすために、辛いものを食べたくなるのだとしたら面白いですね。
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ちなみに、唐辛子にはうま味成分のグルタミン酸が豊富に含まれているため、実は日本で普段食べられている料理との相性もいいのです。激辛ブームをきっかけにいろいろな料理に唐辛子を入れるようになった結果、従来の定番メニューにも新しいおいしさの可能性があることがわかり、それがさらなるブームの過熱につながっている気もします。
激辛ブームも4回目ともなると、ただ単に辛いだけでなく、いろんな嗜好が生まれているようです。例えば、「花椒」を使った四川料理は最近のトレンドの一つ。「シビレ」や「マー活(花椒を使ったしびれ感のある辛さを楽しむこと)」といった言葉をSNSなどで見たことがある人もいるかもしれません。唐辛子だけでなく、柚子こしょう、黒胡椒、わさびなど、辛みのあるスパイスが幅広く注目されているのも特徴です。
最近では小瓶やチューブに入った世界中のスパイスが手軽に手に入るようになっているので、ぜひ、さまざまなスパイスを活用して、「辛さ」を楽しんでみてはいかがでしょうか。
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執筆者プロフィール
南 恵子(みなみ けいこ)
All About「食と健康」ガイド。NR・サプリメントアドバイザー、フードコーディネーター、日本茶インストラクターなどの資格取得。現在、食と健康アドバイザーとして、健康と社会に配慮した食生活の提案、レシピ提供、執筆、講演、商品企画協力などを中心に活動する。
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