2021年世界保健機関(WHO)の報告によると、世界各国で大気汚染に由来する健康被害がより深刻になっていると言われています。私たち人間は空気を吸って生きているため、大気汚染を見て見ぬふりはできません。ではきれいな空気を取り戻すためにはどうしたらいいのか? 大気汚染の原因や私たちの身近でできる解決に向けた取り組みについて紹介します。
大気って何? 大気汚染って何?
大気とは地球をとり巻いている気体の層で、一般的には地球の「空気」と考えていただくと想像しやすいでしょう。その大気が汚れてしまうことが「大気汚染」です。大気汚染の原因は火山の噴火による塵など自然由来のものもありますが、主に社会問題となっているのは自動車から出る排気ガスや、工場の煙などに含まれている化学汚染物質です。
普段生活をする中で、空気が汚れていると言われても実感がわきづらいですが、例えば夏の暑い日などに、空にモヤがかかったようになっているのを見たことがないでしょうか?
この一因となっているのが「光化学スモッグ」です。「光化学スモッグ」は大気汚染の一種であり、その原因は自動車の排気ガスや工場の煙などに含まれる窒素酸化物と炭化水素。これが、太陽光線内の紫外線を受けて化学反応を起こすと「光化学オキシダント」という物質ができ、その濃度が高いと遠くの山やビルなどが白くかすんで見えづらくなります。大気汚染は身近にあるものなのです。
また、大気汚染は私たちの健康に大きな影響を及ぼすと言われています。例えば「光化学スモッグ」が発生している時に屋外にいると、目の粘膜を刺激して目がチカチカしたり、頭痛や吐き気を経験した方も多いのではないでしょうか。
大気汚染のせいで、ピラミッドが崩れてしまうかもってホント?
そのほか、石油や石炭などの化石燃料が燃える際に発生する硫黄酸化物は、人体に入ると気管支炎やぜんそくの原因になり、これらの呼吸器疾患や肺がんの患者は増えていると言われています。世界保健機関(WHO)の報告では、世界人口の約90%が汚染された大気の下で暮らしているため、健康被害のリスクがあると指摘されているほどです。
また、大気汚染が地球環境や文化・経済に与える影響も少なくありません。
例えば窒素酸化物や硫黄酸化物は酸性雨の原因になり、農作物や森林を枯らしたり、川や湖の魚を住みづらくしたりします。酸性雨はコンクリートを溶かしたり、金属に錆を発生させたりといった建造物の劣化も進めるため、ギリシャのパルテノン神殿やドイツのケルン大聖堂、エジプトのピラミッドなど、世界各国の歴史的遺産の多くが酸性雨の被害を受けていると言われています。
大気汚染は地球上に住んでいる我々全員の問題
では、大気汚染はいつごろから発生しだしたのでしょうか? イギリスではすでに14世紀ごろには工業の発展に伴う石炭の使用の増加と家庭用暖房の燃料使用が始まっていたと言われています。
産業革命以降、石油や石炭を燃やしてエネルギーにすることでその流れはさらに加速しました。日本でも欧米を目指して近代化が進められた明治時代から大気汚染による農業被害などが報告されています。
しかし、各国ともにそのスピードが飛躍的に増したのは第二次世界大戦以降です。その結果、世界各国で公害や大気汚染が問題となりました。
そこで、1950~1960年代ごろから各国は人々の健康を守るために法整備を進めるようになりました。日本では1967年に「公害対策基本法」(1993年に環境基本法と統合)、1968年には「大気汚染防止法」が成立。
「大気汚染防止法」はその後何度も改正を経て、現在でもこれを元に、工場や事業場から排出される大気汚染物質とその量や濃度について基準が定められています。
また、少ない燃料で走るハイブリッド自動車や、大気を汚さないクリーンな燃料で走る自動車の開発、有害ガスの排出量が少ないごみ焼却炉の整備など、企業や自治体も一体となって大気汚染の対策に取り組んできました。
そうした努力が実を結び、先進国では徐々に大気汚染が軽減されつつありますが、急速な工業化を進めている開発途上国の多くは、大気汚染に悩まされています。
それらを、遠い国の問題と片付けることはできません。大気には国境はないので、大気汚染は世界中の国々が協力して取り組まなければ、軽減させることができないのです。
例えば、春先になると話題になる大気汚染物質にPM2.5があります。中国の工場地帯で発生したPM2.5が、偏西風により発生する黄砂に付着して風下の日本に運ばれてくるからです。
同じように、イギリスやドイツなどの工業地帯から排出された窒素酸化物や硫黄酸化物の影響で北欧の森林が被害を受けたり、アメリカの工業地帯が原因の大気汚染がカナダに酸性雨をもたらしたりしていることも問題となっています。
今後は世界各国が独自で対策を行うだけでなく、共通のルール作りや技術協力などを通して地球規模で大気汚染に取り組むことが求められています。
【考えてみよう】(解答はページの一番下を見てね)
Q. 東京都では新宿にある都庁から富士山が見える「富士見日数」を観測しています。東京から遠く離れた富士山は、天気や空気の汚れ具合によって見える日と見えない日があり、空気の透明度を知る目安になると言われています。では都庁で観測を始めた1992年と2020年で富士見日数は増えたのでしょうか、減ったのでしょうか?
大気汚染を防ぐために、私たちができることはある?
大気汚染を防ぐために、私たちにもできることがあります。それは世の中で使うエネルギーの総量を減らすことです。火力発電で電気を作る際にも多くの大気汚染物質が出ますし、ガソリン燃料の自動車の使用も同様です。また、地球環境に配慮した製品を選ぶことも身近に行える取り組みの一つでしょう。
例えばこんなことなら、すぐに始められるのではないでしょうか。
○近くへ出かける時は、車を使わず自転車や徒歩にする
○遠くへ出かける時は、公共交通機関を利用し、複数人の場合は一台の車に乗るようにする
○節電に努める。また、家電製品を買い替える時はエコ家電を検討する
○ごみをきちんと分別し、資源ごみはリサイクルに回して、燃えるごみを減らす
○なるべく地元で獲れたものを食べることで、産地から輸送する際に出る排気ガスを減らす
どれも毎日の生活の中で気軽に取り組めるものばかりです。ぜひ、親子で話し合いながら行ってみましょう。
【考えてみよう】
A. 増えた。
1992年の富士見日数は84日。2020年は110日の観測を記録しました。また2016年から5年連続で100日以上、観測されています。高度経済成長期から大気汚染対策に取り組んできた結果、空気の透明度があがり、気象条件次第で見える日数が増えたと言われています。今や、日本は世界に比べて法規制が厳しいと言われていますが、一人ひとりが協力することで、地球全体の空気をもっときれいにしていきたいですね。
※文中リンゴキッドの吹き出しは、編集部追記
執筆者プロフィール
大貫 未記(おおぬき みき)
気象予報士・健康気象アドバイザー。化粧品メーカーやドクターを取材するうち、女性の肌や体が天気の影響を受けていることを痛感して、2003年に気象予報士の資格を取得。
※本ページの記載内容は記事公開時点の情報に基づいて構成されています。
ハウス食品はリサイクルしやすいパッケージの開発に力を入れているよ。例えば、とんがりコーンの箱は底の部分にミシン目を入れて、捨てる時に折りたたみやすいよう工夫しているんだ。また、『冷しゃぶドレッシング』シリーズは、キャップ部分のとりはずし方法がパッケージに書いてあるから、分別する時に困らないね。