毎日の食事の準備を面倒だと感じる人も多いのではないでしょうか。特に家族全員が在宅していることが続くと「毎日、ご飯のことばかり考えているうちに、食事の支度をストレスだと感じるようになった」という人も。そんな食事作りとストレスについて、メンタルケア・コンサルタントの大美賀直子さんに対処法を教えていただきました。
料理が好きでも嫌いでも…毎日ご飯を作るのがストレスになる理由
正直に言えば、毎日の食事の支度がちっとも苦にならないと思っている人は少ないのではないでしょうか。料理そのものは好きだとしても、1日あたり3食分、これが毎日続くとなれば話は別です。
献立を考え、買い物に行き、調理をする。食べ終わったら洗い物をして、ゴミ出しをする……ここまでがワンセット。しかも、献立一つをとっても、家族の食の好みや栄養バランス、かかる予算などを考慮した上で、翌日のお弁当に転用できるかどうかや、子どもたちの給食メニューとかぶっていないかなど、考えることは山のようにあります。
仕事や子育て、他の家事などをこなしながら、これらを何年、何十年もやり続けるなんて、一瞬も嫌にならないほうが不思議だというものです。
さらに極め付きが、「うーん、揚げ物か……今日食欲なくてさっぱりしたものがよかったな」「えー? またこれ? 最近、メニューがマンネリ化してない?」と言った、家族だからこその遠慮のない感想。心の中で思うだけなら自由ですが、作ってもらった感謝より先にこんなことを言われては、せっかくの苦労も報われません。
でも、食事の準備をしないというわけにはいきません……。このストレス、いったいどうすればよいのでしょうか?
ストレス解消のアイデアその1:「丁寧な手作りが一番」でなくてよい
たまには手作りをお休みして、家族がそれぞれ好きなものを注文したり買ってきたりして、一緒に食べるのもよいのではないでしょうか。和・洋・中だけではなく、タイ料理やトルコ料理など外食のバリエーションは豊富です。さらに、コロナ禍になってからはテイクアウトに取り組む店も多くなり、作りたての料理を家まで配達してくれるサービスも複数登場しています。食の基本は栄養が摂れてコミュニケーションを楽しめること。もちろんコストや栄養面を考えると毎日というわけにはいかないですが、家族みんなが楽しく過ごせることが大事です。
家でご飯を作る時も、毎日一から手作りでなくてもよいでしょう。スーパーに行けば、下ごしらえ済みの肉と野菜がパックになっていて、あとは炒めるだけという素材セットもたくさん並んでいます。使うだけで味がキマる調味料もたくさん登場していて、中華も洋食も、スパイスの効いたカレーも簡単に作れます。火を使うのも面倒だという日は、カットされたキャベツと冷凍から揚げを買ってきたってよいわけです。
「そういうのは手抜きしていると思われそうで、別のストレスがたまってしまう」という人は、ツールを駆使してもよいかもしれませんね。例えば、お豆腐にのせるネギはキッチンバサミで刻むとか、きゅうりもみのきゅうりはスライサーでカットするとか。包丁とまな板を使わないだけで手間はぐっと抑えられ、洗い物も減らせます。最近流行りの調理家電を投入すれば、材料を入れてスイッチを押すだけでおいしい煮込み料理ができたり、ほくほくのグリル料理ができたりもします。どれもこれもちゃんと手作りだと言えるでしょう。
また、もし小さい子どもがいる家庭で食事に対するストレスに悩んでいるなら、こども食堂などを頼ってみてもよいかもしれません。こども食堂は、生活に困っている人が利用するものというイメージがあるかもしれませんが、実は誰でも行ってよいんです。食べることでコミュニケーションが広がり、生活の楽しみが増えるのではないでしょうか。
ストレス解消のアイデアその2:「赤・黄・緑」で考えると、簡単に栄養バランスが整う
前述のように、献立を考えるのは調理そのものよりも手間がかかるかもしれません。家族の健康を考えると、ただおなかがいっぱいになりさえすればよいわけではないからです。考えるという作業は目に見えるわけではないので、いまいち評価されにくいのですが、学校給食や社員食堂などのメニューを作っているのは栄養士というプロであることを考えると、それがどれだけ大変なことかわかるのではないでしょうか。
そこでおすすめしたいのが、「赤・黄・緑」で栄養素を把握する方法。一食のなかで、あるいは1日のなかで「赤・黄・緑」にあたる素材をまんべんなく使って食事を作ることで、栄養バランスが整いやすくなります。
〇赤(体をつくるもとになる食品:たんぱく質・ミネラルなど)
肉/魚/卵/ハム・ソーセージ/牛乳・乳製品/豆類(味噌・納豆・豆腐など)/海藻類 など
〇黄(エネルギーのもとになる食品:炭水化物・脂質など)
ご飯/パン/麺類/芋類/油脂類 など
〇緑(体の調子を整えるもとになる食品:野菜・果物など)
緑黄色野菜/その他の野菜/果物 など
農林水産省 実践食育ナビ 参照
たとえば、ご飯(黄)とみそ汁、納豆、ハムエッグ(赤)という朝食には緑が足りません。そこで、みそ汁を具だくさんにしたり、サラダを添えたりして野菜を増やせば、「赤・黄・緑」が整ったメニューになるというわけです。すごく簡単ですよね。
世の中にはいろいろな健康情報があふれていますが、実際のところ毎食完璧な栄養バランスを完成させるのは、ほぼ不可能です。細かく考えすぎて嫌になるより、ざっくりと基本を押さえて、極端な過不足をなくしていく。そうすれば致命的な栄養不足は起こりにくくなります。
また、「赤・黄・緑」を意識すると、食卓が華やかになります。目でも楽しめ、食欲がわきやすい献立になるというわけです。
ストレス解消のアイデアその3:時にはあえて一つの作業に集中してみる
逆説的に聞こえるかもしれませんが、時には、あえて一つの作業に集中するという方法もあります。
例えば、ひたすら野菜を刻んで具だくさんスープを作る、山のような栗をむいて渋皮煮にする、何十個もの餃子を黙々と包む……無心になって単純作業を続けると、なんとなく気持ちが落ち着いてきます。豆をコトコト煮ながら、やわらかく仕上がる過程を眺めるのもよいですね。また、うどんやパンを粉から手作りするのもおすすめ。力いっぱいこねたり、思い切り叩き付けたりして、食材にエネルギーをぶつけるのも、スカッとしますよ。
このように一つの作業を集中して行うと、余計なことに気を取られず、モヤモヤした気持ちをリセットできます。これは、「マインドフルネス」という心理療法の一つ。ストレスと上手に付き合う一つのコツです。
こうして完成した料理は、いつもより手間をかけた分、達成感や満足感が増すもの。家族でおいしく味わって、おなかが満たされれば、幸せな気分になるに違いありません。
生きている限り、食事をしないわけにはいきません。疲れていたり気分がのらない日は外食やテイクアウトを利用したり、調理家電などを活用した時短テクニックを駆使しつつ、時にはとことん一つの作業に集中して料理してみる。そんなふうにメリハリを付けると、毎日のご飯作りのストレスも軽くなり、楽しく食事ができるのではないでしょうか。
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執筆者プロフィール
大美賀 直子(おおみか なおこ)
メンタルケア・コンサルタントであり、All About「ストレス」ガイド。公認心理師、精神保健福祉士、産業カウンセラーの資格を持ち、カウンセラー、作家、セミナー講師として活動する。現代人を悩ませるストレスに関する基礎知識と対処法を解説。ストレスマネジメントやメンタルケアに関する著書・監修多数。
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