近年、テレビのニュースや新聞などで取り上げられることが増えた食品ロス(フードロス)問題。生産や流通過程で出るイメージが強いかもしれませんが、実は、食品ロスの半分は家庭から出ているのです。家庭でできる食品ロス削減の取り組みを、ご紹介します。
家庭からの食品ロスを減らす秘策は「捨ててしまった簿」
「食品ロス」とは、本来食べられるにもかかわらず捨てられている食品のことですが、規格外野菜や小売店の売れ残り品廃棄のイメージが強く、なんとなく自分ごとではないと思っている方が多いのではないでしょうか。
農林水産省および環境省の調査によれば、平成30年度の食品ロスの量は約612万トン。このうち食品関連事業者から発生する事業系食品ロスが54%、家庭から発生する家庭系食品ロスが46%と、全体の約半分が家庭から出ていることになります。つまり、家庭での食品ロスを減らすことも、食品ロス問題解決には重要なのです。
家庭での食品ロスを減らすための第一歩は、現状を正しく把握することですが、家庭の食品ロスは大きく2つに分けられます。
・使いきれなかった食材
買ってきたものの、手をつけないうちに消費期限が切れてしまったり、傷んで食べられなくなったりしてしまったもの
・料理の食べ残し
調理したけれども、食べきれなかったもの。残ったものを翌日以降に食べようと冷蔵庫にしまったが、食べないうちに腐らせてしまったものも含む
これらを減らすのにおすすめなのが、家計簿ならぬ「捨ててしまった簿」をつけること。いつ何を捨てたかを、簡単に書き留めておくのです。自分がどういったものを捨ててしまっているのか、その傾向を知ることで、食品ロスを防ぐための対策を考えることができます。
買い物のちょっとした工夫で、使いきれない食材をゼロに!
使いきれない食材をなくすポイントは、上手な買い物です。基本は、数日分の献立を考えてからまとめ買いすること。買い物の回数が多いほど、「衝動買い」や「ついで買い」が増える傾向にあるからです。
献立を決めずにスーパーに行くと、特売品などに目がいきがちですが、そんなふうになんとなく買ったものは、結局使わなかったということも多いのです。例えばもやしや納豆、豆腐などはよく値下げされる商品のひとつ。「体に良さそうだし、使いまわしがきくし、何よりこんなに安いのだから!」とついつい手が伸びてしまいますが、そもそも消費期限が短いため安くなっているもの。
「捨ててしまった簿」にそうしたものが多く記されている方は、カゴに入れる前にいつどの料理に使うかを考え、考えつかないようであれば買うのを控えるようにしましょう。
また、数日で傷んでしまう野菜や魚などの生鮮食品は、冷凍されたものを利用するのがおすすめです。最近では冷凍食品のバリエーションが増えて、本当に使い勝手がよくなっています。「生鮮食品を買ってから数日経ち、いざ使おうと思ったらしなびていた、腐っていた」というケースが多い人は、ぜひ冷凍食品に注目してみてください。
冷凍食品は、少しずつ使って残りはまた保存しておくことができるのも魅力。使いかけの野菜が冷蔵庫の隅で干からびているといったことも減らせます。冷凍野菜は生野菜に比べて栄養価が落ちるのでは?と思っている人もいるかもしれませんが、含まれる栄養分が一番多くなる旬の時期に収穫して急速冷凍しているので、栄養価も鮮度も心配ありません。
他にも、そもそも保存期間が長い缶詰なども積極的に利用しましょう。ツナ缶はもちろん、最近人気が高まっているサバ缶やイワシ缶も、アレンジ次第でさまざまな料理に使えます。骨までまるごと食べられるため、カルシウム補給にもぴったり。
また、どうしても必要以上に買い物をしてしまうという人は、ネットスーパーを使用するのもひとつの方法です。家にある食材を確認しながら注文できるため、メニューを考えやすく、重複買いが防げます。また、その場の雰囲気で気分が盛り上がって、特売品やレジ横のお菓子をつい買ってしまうこともありません。カゴに入れてしまったものを戻すのも簡単。コロナ禍の今なら、感染症予防にもなりますね。
簡単リメイクで、残り物がまったく違う料理に変身!
では、「捨ててしまった簿」に、調理済みのものがたくさん書かれてある方はどうすればいいでしょうか。
中途半端な量の食べ残りは、翌日の食卓に出してもなんとなく箸が伸びないもの。それなら、発想の転換をしてみてはどうでしょう。どうせなら大量に作ってしまうのです。例えば、野菜をたくさん刻んでスープにします。翌日はそれにトマトを入れてトマトスープとして食べ、3日目はカレールーを足してカレーにする。このように簡単リメイクを覚えれば、プラスひと手間で食べきることができます。
簡単で汎用性が高いのは以下の3つのアレンジ。どんな料理でもいずれかの方法が使えるので覚えておいて損はありません。
- 1.春巻きの皮で包んで揚げる
- 2.耐熱皿の上に置き、チーズをのせて(かけて)焼く
- 3.豆腐であえて白和えにする(白和えは出汁を使ったしっかりした白和えではなく、豆腐和えの要領で、ドレッシングなどをかけて味付けのバリエーションを)
さらに、レトルトソースを調味料として使うと、リメイクレパートリーの幅が広がります。なかでも特に使い勝手がいいのが、レトルトカレーやミートソース、麻婆豆腐の素など。例えば残った揚げ物や肉料理、温野菜などにかけるだけで、簡単に“味変”が楽しめます。
前日とまったく違う料理になれば、家族も新鮮な気持ちで食べることができます。献立作りの際にはぜひ、使いまわしやリメイクの視点も取り入れてみてください。
保存方法にも一工夫。どうしても食べきれなさそうな時は?
食材の保存方法を見直すことも、食品ロス対策につながります。
例えば、肉や魚はもちろん、多くの野菜やきのこなどは、買い物から帰ってすぐに冷凍庫に入れれば、1カ月ほど保存することができます。ネットなどで調べてみると、これまでなんとなく冷蔵庫にしまっていたけれども、実は冷凍できるものが意外とたくさんあることがわかるでしょう。ちなみに、冒頭で挙げた、もやしや納豆、豆腐も冷凍保存できます。
調理に使う大きさに切って冷凍するだけの「ダイレクトフリージング」なら、下ごしらえも不要で凍ったまま調理に使えて便利です。切るのが面倒だと思う方は、最初に料理に使う際についでに切ってしまうようにすれば、手間も時間も削減できます。
一方、乾物や缶詰など消費期限が長いものは、保管ルールを工夫してみましょう。
ストックする際、買ってきたばかりの新しいものを奥にしまうようにすれば、自然と手前にある古いものから使うようになり「知らないうちに消費期限が過ぎていた!」ということを防げます。コンビニエンスストアの陳列棚と同じ仕組みです。一度封を切ったものは食品庫に戻さず、冷蔵庫へ。目につく場所にあることで早く使おうという気持ちになる上、湿気も防げて一石二鳥です。
また、3カ月に一度くらいはストック量を見直してみる習慣を。セールの際にたくさん買い込んだ保存食や季節の挨拶でいただいた品が、気づけばちっとも減っていないなんてこともあります。
早めに気づけばおいしく食べきることもできますが、どうしても余るようなら、家族や友人に声をかけたり、フードバンクに寄付を。フードバンクは、さまざまな事情で毎日の食事が困難な人に食材を届ける取り組みで、生産者や食品会社などの他、家庭からの寄付も受け付けています。加工食品なら賞味期限が1カ月以上あるのが目安。家庭での食品ロスを減らすのを手伝ってもらう気持ちで、気軽に連絡してみましょう。
食品ロスは地球にとっては資源の損失であり、家計にとっては負担の増大です。しかしそれ以上に、せっかく買った食材や、調理した料理を捨てる際の「ああ、またやってしまった……」と胸がチクリとする感じがツライ方も少なくないはず。ちょっとした工夫で「捨ててしまった簿」記入ゼロは目指せます。今日からぜひ、取り組んでみてくださいね。
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執筆者プロフィール
矢野 きくの(やの きくの)
家事アドバイザー・節約アドバイザー。女性専門のキャリアコンサルタントを経て女性が働くためには家事からの改革が必要と考えて現職に。家事の効率化、家庭の省エネを中心にテレビ、雑誌、講演ほか企業サイトや新聞での連載。テレビのクイズ問題の作成や便利グッズの開発にも携わる。
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