自然災害といった万が一の事態に備え、用意している人も多い非常食。最近は種類が豊富で、驚くほど、おいしいものが数多くそろっています。今回は、そんな非常食の具体的な種類や保存技術、自宅での保管方法の詳細をご紹介しましょう。
バラエティに富んだおいしい非常食は、災害リスクの高い国ならでは
以前の記事『非常食は、いつもの食事の延長線にあり!おいしく無理のない備蓄と災害時の健康 』でもお伝えしていますが、日本には長期保存が可能なうえに、おいしく食べられる食品が多く存在しています。これは、世界的にもあまり見られないこと。
もちろん、海外にも保存食のマーケットがあり、宇宙食や軍隊のミリ飯(=戦場携行食)といった長期で保存できる食品も存在します。しかし、日本のようにバラエティに富んだものはほとんどありません。この大きな理由は、日本ほど自然災害を意識して開発されていないからでしょう。
自然災害などの非常時に、気持ちの支えとなるのが食事。最初のうちは水とおにぎりだけで満足できても、時間が経つにつれ、温かくおいしいものが食べたくなってくるものです。こうしたことを理解できるのも、自然災害リスクの高い日本ならでは。だからこそバラエティに富み、味にもこだわった非常食を作ることができるのでしょう。
非常食にはどんなものがある?
多彩と言われる日本の非常食。具体的にはどんなものがあるのか、代表的なものをご紹介しましょう。
・アルファ米
火を使わず、水やお湯で作れるアルファ米のごはん。10年ほど前とは比べものにならないほどおいしくなっており、“炊きたて感”を再現できているものも多くあります。
・温めずにおいしいカレー
レトルト食品では、ハウス食品の『LLヒートレスカレー<温めずにおいしい野菜カレー>』や『LLヒートレスシチュー<温めずにおいしい野菜シチュー>』のように、温めなくてもおいしく食べられるものがあります。被災直後はとにかく“手間がかからないこと”が重要になるので、こうした商品をうまく取り入れましょう。
・非常食野菜スープ
災害時は流通がストップしてしまい、野菜やパンといった保存が利かないものから不足します。野菜がとれないとビタミンをはじめとした栄養素が足りなくなるため、野菜がたくさん入ったスープなどで補いましょう。フリーズドライ、パウチ式など種類も豊富で、手軽に栄養を摂ることができます。
・缶入りのパン
災害時、なかなか手に入らなくなるものの代表格が「パン」。野菜同様、保存が利かないうえに、調理にどうしても電気が必要になるからです。調理不要で長期保存できる「缶入りのパン」はかなり前からありますが、近年は味のバリエーションが増えています。
・専門店とのコラボ缶詰なども
上記以外にも、カレー専門店coco壱番屋が監修したさばカレーのように有名店とコラボした缶詰やフリーズドライのスープなど、おいしい非常食はどんどん増えています。
長期保存できるのはなぜ?非常食に用いられる技術
一般的に非常食は3年〜5年、あるいはそれ以上の長期保存を可能としています。ここまで長い間、腐敗や味の劣化を抑えられるのも、ひとえに技術力があってこそ。フリーズドライや真空での加工など、非常食作りに用いられる日本の製法は、世界的に見ても高いレベルと言えるでしょう。
たとえばアルファ米の製法は、炊いたごはんに熱風を当て、急速に乾燥させることで雑菌の繁殖を防ぐというもの。さらに、酸素や水分を通しにくいバリア性の高い包材を使用し、脱酸素剤を封入することで食品中の油の酸化を抑えるといった工夫も施されています。また、缶入りのパンには、高温蒸気による殺菌や真空梱包技術なども用いられているそう。
このほか、ハウス食品の『LLヒートレスカレー<温めずにおいしい野菜カレー>』は、原料を厳選して配合したことで、経年による風味の劣化や変色、水分の分離をできる限り抑えており、製造後5年6カ月もの常温保存を可能としています。
さらに、常温で固まらない植物油脂や、ペースト状にした野菜などを使用し、温めなくてもなめらかな舌触りを実現。常温時は香りが立ちにくい点も考慮し、かつお由来のうま味を利かせるなど、おいしく食べられるように、さまざまな工夫を凝らしています。
なお、同様の製品には、『温めずにおいしいカレー』も用意。賞味期間は製造後3年となりますが、それでも十分な長さ。『LLヒートレスカレー』と同じように、常温では固まらない油を使っており、そのままおいしく食べられるのがポイントです。
備蓄している非常食を上手に管理するには?
「非常食は長期保存できるから」と油断していると、いつの間にか消費期限を過ぎてしまうケースはありがちです。これを防ぐために実践したいのが、以前の記事でもご紹介した「ローリングストック」。 非常食にこだわらず日常的に口にする食品を備蓄して、半年から1年ほどで消費しながら買い足すという方法です。これなら、消費期限の長さだけにこだわって非常食を選ぶこともありません。
また、ローリングストックが基本ですが、それでも消費しきれない場合は、フードバンクなどへの寄付を検討するのもひとつの方法。フードロスが社会問題にもなっている昨今だからこそ、個人はもちろん、非常食を大量に準備している自治体や企業にも、こうした姿勢は必要と言えるでしょう。
なお、非常食を備蓄するという行動は、「災害はまたすぐにやってくる」という意識付けにもなるもの。
日本では大雨などによる被害も増えていますが、今後はさらに大規模な災害や地震の発生が予想されています。日本の場合、全国規模で被災することはほとんどなく、災害が起こってもほかの地域からの支援がすぐにやってくるため、水や食料がなくて餓死するといったことは稀です。
それでも、自宅避難を行う可能性はゼロではありません。家族の健康と生命を守るには、各家庭でしっかり備蓄をすることが大切。深刻に考えすぎず、安心を得るためと思って、いつ、どんな時でもおいしく栄養価の高いものを食べられる準備をしておきたいですね。
執筆者プロフィール
和田 隆昌(わだ たかまさ)
All About「防災」ガイド。災害危機管理アドバイザー。感染症で生死をさまよった経験から「防災士」資格を取得。災害や危機管理問題に積極的に取り組み、専門誌編集長を歴任。長年のアウトドア活動から、サバイバル術も得意。主な著書に『中高年のための読む防災』(ワニブックス)があり、講演会のほかTVなどのメディア出演も多数。
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