高齢社会の日本で、できるだけ長く自立して生活できること。しかも若々しくイキイキと人生を楽しみたい、というのは皆の願いではないでしょうか。では、老けないようにするにはどうしたらよいのでしょう。もちろん適切な運動や休息、ストレスのコントロール、趣味や社会的な活動を継続しやりがいや気力を維持することも大切なことです。今回は、特に「老けない=できるだけ老化スピードを抑えて健康である」ための食生活について考えてみましょう。
老けないために考えたい、「老け」を促進する要因とは
「老け」を促進する要因は何でしょう。慶応大学の研究では、運動不足や食べ過ぎにより内臓周辺に脂肪がつく「内臓脂肪型肥満」が、お腹がポッコリと出て老けて見えるだけでなく、免疫老化を加速させ、糖尿病や脂質異常、高血圧が進行して、心筋梗塞、脳卒中、心不全、死亡の危険性が数倍高まり平均余命も短くなることから、老化を加速しているのではないかと考えられると発表されました。またイギリスの研究で、肥満が認知症のリスクを高めるという報告もあります。
免疫老化とは、加齢に伴う免疫細胞の機能異常のこと。高齢者においては感染に対する抵抗力の低下や、過剰な炎症反応、糖尿病や心血管疾患の発症頻度の増加の原因となっています。
人類は長い間、食料不足であった時代を生きてきたわけで、栄養学は栄養素の役割や栄養素が不足するとどんな不調が起きるのかを明らかにしてきました。しかし、経済的に豊かな先進国では飽食の時代を経て、食べ過ぎてカロリーオーバー、あるいは糖質や脂質に偏った食事から肥満者が増え生活習慣病の増加が問題となっています。
BMIが低すぎると死亡リスクが高くなる傾向もあるため過度な制限は問題ですが、肥満を防ぐことが「老けない」ことにもつながる可能性は高いと考えてよいでしょう。
「腹八分目」が健康によいワケ
老けないための食生活として、「エネルギー制限」が注目されています。
エネルギー制限食で寿命を延ばす研究は、数十年にわたり動物レベルで行われ、エネルギー制限食をとることで寿命が延びるだけでなく、さまざまな生活習慣病や加齢による症状の予防改善に役立つのではないかという報告がいくつもされています。
またヒトの長寿や老化をコントロールする遺伝子サーチュインが注目され、近年の研究成果から、カロリー制限によって活性化されるサーチュイン遺伝子は、長寿に関連する細胞修復、エネルギー生産、アポトーシス(プログラム細胞死)に好影響を与えるのみならず、インスリン抵抗性も改善することが明らかにされてきました。
ただし、気をつけなければならないのは、現在行われている実験の中にはまだまだ小規模であったり動物実験だったりするものが多くあり、まだ人間にそのまま当てはめてよいのかどうかは明確ではありません。
また、それらの研究報告の中には、腹六分目という厳しい条件があるものもありますが、あまり厳しく制限すると、栄養面でのバランスをとりにくくなります。エネルギーや栄養素が不足しても健康障害は起きてしまうのです。食の細いお年寄りや、やせ嗜好のある女性が、今よりもさらに控えめにするのは危険です。筋力が落ちたり、骨粗鬆症になったりすることもあり、フレイルをまねくことにもつながりかねません。
カロリーオーバーや偏った食事から2型の糖尿病、高血圧、脂質異常症になっている人は、ある程度カロリー制限をして、数値をコントロールした方がよい場合がありますが、健康的な人はあくまで食べたいだけ食べるような食べ方はやめて、適量を守るという、まさに「腹八分目」が適切なのだと思います。
食べすぎず、「腹八分目」に抑えるコツ
多忙な現代人が毎食細かくエネルギー計算をするのは難しいのが現実です。そこで腹八分目ですごすためのいくつかのポイントをご紹介します。
・きちんと3食、ほぼ規則正しいリズムを心がける
規則正しい食事ができているならば、まずは実験の動物のように食べたいだけ食べ続けている状態ではないと言えるでしょう。また夜遅い食事なら、軽いものにしましょう。同じ食事をしても、夜中の食事は、日中よりも脂肪蓄積のリスクが高くなります。
・量をコントロールする
家族の分のおかずをすべて大皿に盛ったりするスタイルではなく、面倒ですが一人分ずつ食べるべき量を皿に盛るスタイルがよいでしょう。大皿に取ると、何をどれだけ食べたかわかりにくくなります。脂っぽいものは小皿で、野菜やきのこ、海藻などカロリーの少ないものは大きめのお皿などに盛り付けるようにするとよいでしょう。
・余分な脂質はできるだけカット
揚げ物よりは焼き物、霜降り肉よりは赤身の多い肉、デミグラスソースよりは和風おろしソースというように意識してみましょう。というのも、1g当たりのカロリーが糖質やたんぱく質(4kcal/1g)に比べて、脂質は9kcal/1gと2倍以上になります。もちろん脂質も必要な栄養素ですが、現代の日本人の多くは、脂質をとりすぎる傾向がみられます。
・だらだら食べない
食事と食事の間に適量とる間食は、食の細い人や、食事が夜遅くなる人には必要な場合もあります。しかし、間食をだらだら食べ続けているようなタイプや、しかも甘いものは食べないけれどスナック菓子が好きというタイプは、油断できません。特にスナック菓子の中には、甘いお菓子同様に高カロリーのものもあるので要注意です。間食は時間と量を決めてとりましょう。
・日本食を見直す
日本人なら毎食日本食を食べているかというと、そうではありませんね。東北大学や国立がん研究センターの研究グループが行った「JPHC研究」で、日本食パターンが高い人では、低い人に比べ、全死亡のリスクが14%、循環器疾患死亡のリスクが11%、心疾患死亡のリスクが11%低下していたことがわかりました。
日本食は、ごはんを主食に半分程度のカロリーを摂取し、一汁二~三菜の献立にすることで、肉や魚、大豆製品からたんぱく質や脂質、副菜類から野菜やキノコ類、海藻など幅広い食品から、さまざまな栄養素やフィトケミカルを摂取することができることなどが健康に有益と考えられています。
・食べる順番に気をつける
糖尿病ではないけれど、そろそろ血糖値が気になる、という人は、食べる順番を意識した食生活を心がけましょう。最初に食物繊維の多い野菜を食べてから、たんぱく質のある肉や魚を食べます。そのあとで炭水化物のごはんという順番で食べるようにしましょう。過度な糖質制限や炭水化物ダイエットをするのではなく、栄養素を取り込む順番を少し変えていくだけでも、血糖値の上昇を抑えることができます。
・よく噛むこと
幅広い食品をまんべんなく食べた方が健康のためにはよいので、何を食べるかの前に、どう食べるかも大切です。よく噛んでゆっくり食べること。しっかり噛まずに早食いの人ほど食べ過ぎて肥満になりがちですし、噛むことで満腹感にもつながります。
できるだけ根野菜、豆類、ナッツ類などの「かたいもの」、イカ・タコ・コンニャクなどの「弾力のあるもの」、切干し大根や海藻・キノコなど繊維質の多く含まれているものを選んで食べると、不足しがちな野菜や海藻、豆類などを自然と選びやすくなります。主食のごはんに、玄米や発芽玄米・雑穀などを混ぜたりするのもさまざまな栄養素や食物繊維をとることになり、白米だけよりも重量当たりのエネルギーが減り、またよく噛むことにつながります。
執筆者プロフィール
南 恵子(みなみ けいこ)
All About「食と健康」ガイド。NR・サプリメントアドバイザー、フードコーディネーター、エコ・クッキングナビゲーター、日本茶インストラクターなどの資格取得。現在、食と健康アドバイザーとして、健康と社会に配慮した食生活の提案、レシピ提供、執筆、講演等を中心に活動。毎日の健康管理に欠かせない食に関する豊富な情報を発信しています。
※本ページの記載内容は記事公開時点の情報に基づいて構成されています。