たんぱく質は水分を除いた身体の成分で最も多くの割合を占めています(約16%)。ご存じの通り、たんぱく質は血となり肉となるもので、皮膚、髪、爪、内臓など体内のいたるところに存在しています。そのため、美容に健康にと役立つことがいっぱい。そこで、今回は「たんぱく質の摂り方」についてお話ししたいと思います。
1日にどれくらいたんぱく質を摂取すればよい?
「日本人の食事摂取基準(2020年版)」によると、日本人が1日に摂取すべきたんぱく質(推奨量)は15~64歳の男性で65g、18歳以上の女性で50gとなっています。厚生労働省の「国民健康・栄養調査(令和元年)」では、対象年齢の中で最も摂取量の平均が低い30~39歳男性で74.8g、20~29歳女性で61.1gですので、この量を摂取することは、現在の日本人の食事においてはさほど難しいことではないように思います。
しかし、食が細くなった高齢者などはたんぱく質不足が懸念されており、「フレイル」や「サルコペニア」、寝たきりの高齢者は「褥瘡(床ずれ)」などのリスクが高くなることから、たんぱく質摂取不足が問題視されています。
摂取するたんぱく質はたんぱく質であればなんでもよいかといえば、そうではありません。たんぱく質は窒素を含む「アミノ酸」が多量に結合してできています。ヒトの身体を構成している「アミノ酸」は20種類ありますが、このうち9種類が体内で合成できないため、食事で摂取する必要があります。これらの体内で合成できないアミノ酸を「必須アミノ酸」と呼びます。体内で不足する必須アミノ酸があると、不足した分を他のアミノ酸で補うことはできません。
「必須アミノ酸」が不足する場合、「制限アミノ酸」と呼ばれ、そこでアミノ酸の利用がストップしてしまいます。「制限アミノ酸」よりもたくさんあったはずのアミノ酸は使われずに捨てられてしまうというわけです。
優良たんぱく質、すなわち制限アミノ酸のないたんぱく質は「アミノ酸スコア100」です。動物性たんぱく質はいずれもアミノ酸スコアは100ですが、植物性のたんぱく質源(大豆、とうもろこし、実は米にも入っています)は100ではないものがほとんどです。そのため、植物性の食品だけを食べるビーガンの人たちなどは、アミノ酸スコアを気にしながら食事を選ぶ必要がありますが、日本人が一般的に日常生活で摂取している量の動物性食品と植物性食品を食べていれば、アミノ酸スコアはさほど気にする必要はありません。
目的別、たんぱく質の摂り方
たんぱく質は重要な体成分ですが、目標に合わせて摂り方も少し変わります。それぞれの「なりたい身体」やタイミングに合わせたたんぱく質の摂り方のポイントをお話しします。
・スポーツをしている、筋肉をつけたい人には
スポーツをしている方は、筋肉をつけるために一般の人よりも少し多めにたんぱく質を摂りましょう。できれば、鶏ささみや鶏胸肉のように、たんぱく質含有量が多く、脂身の少ない動物性食品がおすすめです。運動直後に糖質と一緒に摂ると理想的です。
基本的には、食事からたんぱく質を摂ることが望ましいですが、スポーツ後など、直ちに吸収できる形でたんぱく質を摂取したい場合には、プロテイン(英語で「たんぱく質」のことですが、ここではスポーツ用品店などで売っているサプリメントを指します)も有効です。練習などで筋肉を使うと、疲労したり一部の筋肉が壊れてしまったりということがありますが、プロテインを飲むことで速やかに補修できます。
・お肌やボディラインが気になる女性には
摂取するたんぱく質が不足すると、肌や髪、爪のコラーゲン量が減少し、美容にもよくありません。ただし、肌や髪のうるおいキープのために摂取するたんぱく質はコラーゲンである必要はありません。良質なたんぱく質(アミノ酸スコア100のたんぱく質と思って構いません)が適しています。油脂の不足で肌がカサカサになることもあるため、同時に良質な油脂も一緒に摂りましょう。
間食に「ヨーグルト」を食べるというのもアリです。ただし、ヨーグルトはカロリーが高いものも多いので、寝る前には避けたほうが無難です。寝る前であればスキムミルクなど、低カロリーのものがよいでしょう。
・子どもの成長には
子どもの成長にもたんぱく質は欠かせません。身体の大きさの割にはたくさん食べるなぁ、と思うくらいでちょうどいいと思います。ただし、身長の伸びと体重の増え方を確認した時に、何の疾患もないのに成長曲線から大きく下振れしてしまうようだと、栄養の摂り方がよくないこともあります。その場合は、成長の様子を見ながら食事を調整しましょう。子どもの場合は、たんぱく質の他に、カルシウムや鉄が多く含まれる食材を選ぶとよいでしょう。
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「高齢者もたんぱく質を摂ろう!」と言われるワケ
昨今、高齢者の「フレイル」や「サルコペニア」が問題となっています。「フレイル?サルコペニア?何それ?」という方もいるかもしれません。
フレイルとは「加齢に伴い身体の予備能力が低下し、健康障害を起こしやすくなった状態」。サルコペニアとは「筋肉量が減少し、筋力や身体機能が低下している状態」。いずれも、加齢に伴って、身体が動かしにくくなっている状態を指します。
これらの原因は、食が細くなっていること。食が細くなり、エネルギー源が減少するのでエネルギー産生が減り、活動量が減り(=動かなくなる)、活動量が減れば筋肉を使わないので、使わない筋肉は「いらないもの」として退化していきます。徐々にこの負のスパイラルが加速していくと、「筋肉量が減少(サルコペニア)」したり、「身体の予備能力が低下(フレイル)」したり、「ロコモティブシンドローム(運動器症候群)」を起こしたりということになります。
これを予防するために、上述の「日本人の食事摂取基準(2020年版)」では、高齢者(65歳以上)のたんぱく質の目標量が1日の摂取エネルギーの15~20%に引き上げられました(日本人の食事摂取基準(2015年版)では13~20%。1日あたり推奨量男性60g、女性50gは変更なし)。
1日にこれだけのたんぱく質を摂取するために、高齢者はぜひ肉や魚などの動物性食品をしっかり食べるようにしましょう。実際、長生きをしている人は肉を多く食べているという調査研究もあるようです。食が細くなり、肉が食べにくくなっている高齢者も多いとは思いますが、頑張って食べていただければと思います。
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執筆者プロフィール
平井 千里(ひらい ちさと)
小田原短期大学食物栄養学科 准教授。女子栄養大学栄養科学研究所客員研究員。女子栄養大学大学院 博士課程修了。名古屋女子大学 助手、一宮女子短期大学 専任講師を経て大学院へ進学。肥満と栄養摂取の関連について研究。前職は病院栄養科責任者(栄養相談も実施)。現在は教壇に立つ傍ら、実践に即した栄養情報を発信。
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