新しい生活様式で外出時にはマスクが手放せない今、どうしてもマスクによる肌荒れが気になりますよね……。マスク生活の中で、肌トラブルとはどう付き合っていくのがよいのでしょう。マスク着用時の肌状態や、肌トラブルの予防方法、美肌を保つコツなど、マスクによる肌トラブルを抱えている患者さんの肌を多く診てきた、ウォブクリニック中目黒 総院長・皮膚科医の高瀬聡子先生に教えていただきます。
赤みやニキビ……これって、マスクによる肌荒れ?原因は?
マスクの着用が日常になったとはいえ、こんなに長くマスクをつけたままなんて初めての経験です。それは高瀬先生にとっても同じで、これだけ長期間マスクをつけて過ごす患者さんたちの肌を診察するのは初めてだそう。そんな中、マスク生活でいかに肌が変化し、どんな肌トラブルを起こしやすいかが、診察をし続けてきてだんだんつかめてきたと高瀬先生はいいます。
「肌は外部環境に合わせようとして揺らぎ、それが肌荒れ・肌トラブルとして表れます。マスクをつけ始めた初期の頃は、マスクエリアの白ニキビ、唇の乾燥、鼻や頬の高い部分のマスクの擦れによる乾燥や赤みなどが患者さんの多くにみられる肌トラブルでした。その後マスク必須の生活が定着してからは、特にあごまわりのザラつきなど、新環境に肌が慣れたからこそ出てくる肌トラブルも増えたように思います」
なんとなく、この肌荒れに思い当たる方もいるのではないでしょうか。マスクと肌が直接触れる部分は摩擦が起こるので、乾燥や赤みが出やすいのは必然ですが……と、さらに高瀬先生は続けます。
「特に気を付けたいのは、一見しっとり潤っているように感じるマスクの内側です。マスクの中は呼気によって夏のように湿度も温度も高くなり、毛穴は開いて皮脂分泌が盛んになります。また、ニキビの原因となるアクネ菌は嫌気性(空気を嫌う性質)なので、密閉されたマスクの中は菌が増殖する好条件になります。つまり、皮脂分泌と密閉により、マスク内はニキビなどができやすい環境なのです。さらに、マスクを外すと一転、一気に水分が蒸発し、肌の水分も同時に奪うため乾燥状態になります。冬のように温度が下がり乾燥することで、肌の血管は収縮して発汗を妨げます。マスクのつけ外しによって交互に不安定な環境にさらされることで、肌のバリア機能が低下して、乾燥ダメージが深刻化しやすくなります。その結果、肌のターンオーバーも乱れ、角質が厚くなってザラつきやすくなります」
マスク肌荒れを防ぐために、普段からできることとは?
では、マスク肌荒れを防ぐために、日頃からどういったことに気を付けるといいのでしょうか?高瀬先生によると、肌トラブルにこれ以上悩まされないよう、ふだんから下記のような心構えや準備をして、肌トラブルに備えておくことが大切なんだとか。
●肌に合った素材のマスクを使う
「多くの人が着用している不織布マスクは、手触りでもわかるとおり肌に直接あたる部分が擦れて、赤くなりがちです。肌環境を整えるという意味では、まずは肌に合った素材のマスクを選びましょう。ナイロンやシルクなど、柔らかな素材のものがおすすめです。とはいえ、ウイルス対策という点では、やはり不織布製のマスクがいいでしょう。なるべく立体的な作りで、鼻や頬が擦れにくいものを選んでみてください」
●スキンケアをしっかりと!
「マスクの中が潤っているように感じても、それは間違いです。バリア機能を高めるためにも、スキンケアでしっかり保湿をしましょう」
●睡眠、食事、運動。規則正しい生活を!
「肌は体の状態や日常生活を映す鏡です。そのため、規則正しい日常生活を送ることは、美肌の重要な要素と言えるでしょう。まずは、不規則な生活習慣を見直してみませんか。たっぷりの睡眠、バランスのとれた食事、適度な運動などを取り入れ、規則正しい生活を心がけましょう」
●ストレスを溜めないことも重要です
「新型コロナウイルスへの不安や恐怖、それにまつわるストレスはありますが、できる限り溜めないようにしましょう。女性のほうがストレスを受けやすい傾向があるので、うまく付き合うためにも解消方法を持っているといいですね。アロマオイルの香りに包まれる、ゆっくり入浴する、お気に入りの音楽を聴く、どんなことでも構わないので取り入れてみましょう」
●紫外線対策も忘れずに
「マスク1枚とはいえ、物理的に肌を覆っているとSPF4~8程度は紫外線防止機能が期待できます。2020年は新型コロナウイルスを恐れるあまり外出自体も控えたことから、それほどマスク焼けは見られませんでした。しかし今後は、マスクをして密を避けるなど条件を守れば外出してもいいのではという認識も広がり、マスク焼けが増える可能性があります。しっかり日やけ止めを塗って、マスクエリアの中と外で色ムラにならないように気をつけましょう」
美肌と免疫力がカギ、自炊で食生活を見直してみよう
肌トラブルの予防・改善のためにも、スキンケアと同じくらいインナーケア・食事がカギになりそうです。そこで、高瀬先生に食事はどんなものを積極的に取り入れるとよいかも伺いました。
●皮脂分泌のコントロールや脂質の代謝に
「ビタミンB2、B6。豚肉、ブロッコリー、カボチャ、色の濃い葉物野菜に多く含まれています」
●抗炎症、抗酸化作用に
「抗酸化作用が期待できるトマトのリコピンやぶどうのポリフェノール、鮭のアスタキサンチンなどを取り入れるといいですね」
●肌の新陳代謝を整え肌粘膜を強化
「ビタミンAを意識的に摂りましょう。代表的なものはうなぎ。人参、みかんなどにはベータカロテンが多く含まれています」
リモートワークで通勤分の時間が空いた分、自炊をしてみませんか?どんな食材にどんな栄養素が入っているのか、何が美肌にいいのか、などを学べそうですね。逆に避けるべき食べ物はあるのでしょうか。
●美肌にNGなのは刺激物
「逆に、コーヒーなどのカフェインの多い食品、白砂糖、チョコレート、刺激の強い辛いものなどは、ニキビや吹き出物の原因となる皮脂を過剰分泌させます。ニキビが悪化したり治りにくくなるので、肌状態を鑑みて適度にとりましょう」
予防をしていても肌が荒れてしまったら、どうしたらいいの?
予防に気を付けていても、マスク肌荒れが起こってしまう可能性はありますよね。その時はどうしたらいいのかを高瀬先生に伺いました。
「マスク肌荒れが起きるということは、ふだんのスキンケアだけでは不十分ということです。自分の肌トラブルに合わせて、プラス1アイテムを投入してみてはいかがでしょうか。マスクで覆われる部分のニキビやあごまわりのザラつきに悩む人は、過剰な皮脂や厚くなった角質をすっきりと落とすことが大事です。余分な皮脂と角質を除去できる酵素洗顔料を、取り入れてみるといいでしょう。角質を柔らかくしてオフする拭き取り化粧水や、美容液もおすすめです。また、ひどく乾燥し赤みやひりつきなどがある場合は、保湿効果が高いクリームやジェル、スティック状のバームなどを部分的に取り入れましょう。低下したバリア機能をサポートする効果が期待できます」
「これらのプラス1アイテムを投入しても、肌荒れが好転しないような場合は、皮膚科の受診をおすすめします。“この程度のことで”なんて遠慮せず、ぜひ皮膚科医に気軽に相談してくださいね」
また、肌表面に起こるトラブル以外にも、高瀬先生が警鐘を鳴らすのは、表情筋の衰えによるたるみやハリの低下だそう。
「マスクをすることで口を大きく動かす会話や笑顔が減り、口や頬の筋肉を使わなくなっています。それが、たるみにつながる可能性があります。表情だけでも笑顔を作ると脳が楽しいと錯覚するので、毎日鏡の前で笑ってみましょう。頬の部分を意識しながら口角を引き上げる表情作りを積極的に行ってみてください」
マスク生活はまだ続くから、楽しく共存していこう!
「マスクで顔の大部分が隠れるため、トーンアップUVで軽くベースメイクをする程度で、見える目もとまわりだけはしっかりメイクするという方が増えています。自宅で仕事をする人は紫外線に当たりにくいですし、石鹸で落ちる控えめメイクにすることで、肝斑の症状がよくなることもあります。テレワークやマスクだからこそできる控えめメイクは、美肌作りにとっておすすめですよ。逆に、たまにはメイクをしっかりして、気分転換をするのもいいですね。ふさぎがちなコロナ禍だからこそ、ちょっとした楽しみを取り入れて心も肌も整えましょう」
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執筆者プロフィール
高瀬 聡子さん
皮膚科医。美容皮膚科クリニック「ウォブクリニック中目黒」総院長。化粧品「アンプルール」の研究開発や、親身なカウンセリングと的確な治療に定評があり、さまざまなメディアでのスキンケア解説も人気。All About「ビューティティップス」ガイド。共書に「女性医師が教えるスーパービタミンC美肌術」(日経BP)、「いちばんわかるスキンケアの教科書」(講談社)など。
WOVE clinic
取材・文/羽生田由香
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