天日乾燥することで、栄養や旨みがギュッと凝縮されるのが乾物の良いところ。例えば切り干し大根の場合、戻しても食物繊維やカルシウム、鉄分が生の大根の2~3倍以上にも。また、干すことで旨みや風味もアップします。健康のためにも料理の工夫としても、もっと取り入れたい乾物。今回は、乾物の栄養や上手な戻し方、気を付けたい保存方法などをご紹介します。
知ってましたか? 実はこんなにある乾物のメリット!
日本の食卓には欠かせない伝統食材、乾物。乾物の歴史は古く、万葉集には、蒸し米を乾燥させた携帯食が登場します。また、平安時代には市場で多くの種類の海藻の乾物が売られていたという記録もあります。水分を抜くことで持ち運びしやすくなるため重宝されましたが、乾物にはそれ以外にもたくさんのメリットがあるんです。
・保存性が高まる
水分が減ることで雑菌やカビなどの繁殖が抑えられるので、常温でも長期間保存できるようになります。 旬の時期にたくさん収穫して保存しておくと、一年を通して食材を使えるようになります。
・高まる栄養価がある
水分が抜けることで栄養価が変化します。例えば大根を干して切り干し大根にすると、食物繊維やカルシウムがアップします。乾物は実際食べる際には、戻して煮炊きしますので、生の大根100gと切り干し大根20gを比較した場合でも、食物繊維は約3倍、カルシウムが4倍となります。 その他ミネラルも大幅にアップします。ビタミンは種類によって増減し、ビタミンCは減りやすいと言われていますが、大根では微差の範囲内です。食物繊維やカルシウムをたくさん摂りたい場合は、切り干し大根を使うとよいでしょう。
・栄養が付加されることがある
太陽の力(紫外線)で栄養素が変化する食材もあります。例えばしいたけが紫外線を浴びると、中に含まれているエリゴステロールという成分がビタミンDに変化します。そのため干ししいたけのビタミンD含有量は、生の状態の約10倍にもなるのです。
・旨みや風味がアップ
水分が抜けることで、食材のもつ旨みや風味の成分が凝縮されます。特に、きのこ類は乾燥してかさが減ることで、旨み成分のひとつであるグルタミン酸がぐっと凝縮されます。 さらに、日に干すことでもうひとつの旨み成分であるグアニル酸が生成され、よりおいしくなります。
・おいしさもアップ
干しブドウや干し芋、干し柿などは干すことで、生のまま食べるよりもより甘さが際立つようになります。干し柿を作る時に渋柿を使うのは、渋柿は生食用の柿よりも糖度が高いためです。ただし、そのままでは渋くて食べられません。柿の皮をむいて日に干すことにより、実の中でアセトアルデヒドという物質が発生して渋み成分タンニンと結合し、渋さを感じなくなるのです。
※)数値は日本食品標準成分表 7訂(2015年)より
乾物の栄養をしっかり味わうための戻し方の工夫とは?
使用する時は、それぞれの食材に合った戻し方をするのが、おいしさと栄養をそこなわないポイントです。代表的な乾物の戻し方を紹介します。急いでいる方は時短できる戻し方もありますが、この戻し方のほうがよりおいしく食べることができますのでぜひ試してみてください。
・しいたけ
たっぷりの水で時間をかけて戻します。5℃くらいの冷たい水に5時間以上つけておくと、リボ核酸(RNA)が抽出されやすくなり、その後加熱した際に旨み成分である「グアニル酸」が多く引き出されることがわかっています。 急いでいるからといって熱湯につけてしまうと、せっかくの旨みが十分抽出されないうちに分解酵素により分解されてしまう上に吸収率も悪くなり、ふっくらとなりません。
・切り干し大根やひじき
たっぷりの水に15分程度つけます。あまり長く水につけると、柔らかくなりすぎてしまいますので気を付けてください。
・かんぴょう
水を張ったボウルでもみ洗いした後、水気を切り、ひとつまみの塩を加えてもみ込みます。再度流水でさっと洗い、熱湯に入れてしんなりするまで中火で10分程ゆでます。塩もみは防虫・防カビのために添加した保存料(二酸化硫黄)による苦味を取るためのもので、無漂白のかんぴょうは塩もみがいらない場合があります。
・高野豆腐
40~50℃のぬるま湯で戻します。ボウルなどにぬるま湯を張って高野豆腐を入れ、冷めるまでそのまま置いたら、水気を絞って食べやすい大きさに切ってから使います。その際、ギュッと絞ってしっかり水気を切ると、乾物臭が抜ける上、しっかり味が浸み込むようになります。
急いでいる時は熱湯を使っても大丈夫です。(商品によっては、すぐに調理できるものもあります)
・大豆などの豆類
やさしく洗ってごみや割れた豆などを取り除き、たっぷりの水に一晩つけておきます。
ちなみに、しいたけや切り干し大根、かんぴょうなどは、戻し汁を煮汁やスープなどに使うことで、戻し汁に溶けだした栄養素も余さず摂取することができます。食材にもよりますが、水溶性の栄養素である、ビタミンB群、水溶性食物繊維、ミネラルならカリウム、カルシウム、マグネシウム、ナトリウムなどが溶けやすいと言われています。ビタミンCも水溶性ですが、前述のように干す過程ですでに減ってしまっていることがあります。
また、かさが減ってたくさん食べられるようになるという乾物のメリットを活かすために、あえて戻さずに調理する方法もあります。例えばセミドライに干したきゅうりやなす、せん切りにして干したにんじん、キャベツなどは、さっと水洗いして炒め物、味噌汁の具として使えます。シャキシャキとした歯ごたえも楽しめますよ。
乾物の保存の際に注意したいこと
常温で日持ちのする乾物は、忙しくて買い物に行けない、食卓にもう1品おかずが欲しいといった時のお助け食材としてもぴったりです。
とはいえ、保存がきくからと何年も保存していると、空気中の水分を吸ってカビが生えたり、他の食品のニオイがうつってしまったりすることも。保管の際には、ビンや缶、ジッパー付き袋など、密閉ができる保存容器に入れて冷暗所や冷蔵庫に置いておきましょう。乾燥剤を入れておくとより効果が上がります。
また、時間が経つにつれて風味や旨みも変化するため、あまり長く置きすぎるとおいしく食べられなくなってしまいます。食材や保存状態にもよるため、一概に開封後どれぐらい日持ちする、とは言えませんが、できれば、使った分だけ買い足しながら一定の量を備蓄する、ローリングストック方式を利用するのがおすすめです。
ベランダでOK!乾物作りにチャレンジしてみませんか?
天日に干すだけという手軽さが受けて、最近では乾物や干物を自作する人が増えています。竹のザルや干し網はスーパーやホームセンターでも手に入るので、興味がある方はチャレンジしてみてはいかがでしょうか。
・初心者にもできる干し野菜&きのこからチャレンジ
にんじんや大根、れんこん、玉ねぎ、パプリカ、きのこなど、普段料理に使っているものなら大抵、干すことで普段とは違うおいしさに。たくさん買ったものの、使い切れなかった時は、端から薄切りにして洗い、キッチンペーパーなどで水気を拭き取って、ザルや網に重ならないように並べます。
大根などは千切りにしてもいいですね。きのこは石づきを取って手で割きます。干した野菜は味噌汁やカレーなどに入れると甘みと歯ごたえが楽しめます。さつまいもは、ゆでたり蒸したりしてから1cm程の厚さに切って干せば、干し芋ができます。
また、食材をできるだけ細かくすると、早く乾きます。天気の良い日なら、半日~1日外に出しておくだけで、程よく水分が抜けます。 広い庭がなくても大丈夫。マンションのベランダでも作れますよ。一番向いている季節は、乾燥し寒風の吹く「冬」です。暖かくなると、糖分の多い食材はカビやすいので、注意しましょう。
・ちょっとおしゃれなドライフルーツ
りんごやオレンジ、キウイ、イチジクなどを薄切りもしくはくし形に切って、ザルや網に並べて干します。りんごは、干す前にレモン汁か酢を加えた水に10分くらいつけておくと、変色が防げます。
果物は野菜と比べて水分が多いため、2~3日干すか(夜は室内に入れます)、オーブンや電子レンジなどであらかじめ水分を飛ばしてから天日に干します。カラカラに乾かさなくても、半生くらいでシャキふわ食感を楽しむのもいいですね。ヨーグルトに入れてフルーツヨーグルトにしたり、フルーツケーキの材料に入れて焼いたり、紅茶に入れて食べられるフルーツティーにしたりと、アレンジも自由です。
乾物を自作する際に、1点気を付けていただきたいのは、市販の商品のように完全に水分を抜くのは難しいこともあり、長期間の保存には向かないということです。自家製食品ですので目安を決めつけず五感を働かせて、おいしいうちに早めに食べてしまうことをおすすめします。
干し野菜もドライフルーツも魚の干物も、自宅でも簡単に安価で作ることができますし、市販の乾物をうまく使うことでおいしく、栄養を摂ることもできます。しっかり食卓に取り入れて、ぜひ素敵な乾物ライフを送ってみてください。
執筆者プロフィール
南 恵子(みなみ けいこ)
All About「食と健康」ガイド。NR・サプリメントアドバイザー、フードコーディネーター、エコ・クッキングナビゲーター、日本茶インストラクターなどの資格取得。現在、食と健康アドバイザーとして、健康と社会に配慮した食生活の提案、レシピ提供、執筆、講演等を中心に活動。毎日の健康管理に欠かせない食に関する豊富な情報を発信しています。
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