食物アレルギーは「子どもがなるもの」というイメージがあるかもしれません。しかし、大人になってから突然発症することも。気づいていないだけで、「実は食物アレルギーだった!」というケースもあるんです。健康やおいしい食事のために、食物アレルギーに対する理解を深めていきましょう。
遺伝じゃないの? アレルギーの原因とは
そもそも、アレルギーとは、体のどのような反応のことをいうのでしょうか?
体には「免疫」と呼ばれる機能が備わっており、有害物を排除する役割を担っています。この免疫が、花粉や食べ物など、本来は体にとって無害なものを有害と判定してしまい、それらを排除しようとする反応をアレルギーと呼びます。いわば、免疫という防御システムの誤作動と言っても差し支えないでしょう。
食物アレルギーとは、特定の食品によって引き起こされるアレルギーのこと。主に子どもが発症しやすいものですが、大人になってから突然発症するケースもあります。食物アレルギーの原因はきちんと解明されていませんが、「遺伝」と「環境」の2つの要因があると考えられています。
家族の誰かに食物アレルギーの人がいれば、なんらかのアレルギー素因が遺伝することがあります。ただし、確実に遺伝するわけではなく、さまざまな遺伝子の組み合わせの結果、そうなる可能性が高いということにすぎません。さらに、アトピー性皮膚炎や気管支喘息など、もともと何らかのアレルギーを持っていると、他のアレルギーにもなりやすい傾向があります。
また、環境面では、「衛生仮説」が挙げられます。これは、衛生管理が行き届いた先進国では細菌などの病原体が少ないために、免疫が無害なものに過剰反応してしまう結果、アレルギーの割合が増えているという考え方です。
「遺伝」と「環境」は、食物アレルギーの原因を考えるうえで不可欠な要素ですが、実際には、極めて多様な環境下で発症するもの。「原因はこれ」と特定するのは難しく、だからこそ、誰でも発症するリスクがあるといえるでしょう。
子どもにはない、大人の食物アレルギーの特徴
大人のアレルギーであっても原因を特定するのは困難です。大人になって発症する食物アレルギーは、子どもの頃から何らかのアレルギーを持っており、大人になっても残っていて発症するというケースが考えられます。普段は症状がでていなくても、摂取量や、他のアレルギーの影響、生活習慣、日々のストレスや体調不良が引き金になることもあります。
大人と子どもの食物アレルギーを比べてみると、アレルギーを引き起こす食品に違いが見られます。子どもで圧倒的に多いのは、鶏卵、牛乳、小麦など。対して大人は、魚類や甲殻類、果物などで発症するケースが増えてきます。
子どもの食物アレルギー、特に鶏卵・牛乳などは成長して消化機能や腸管免疫の発達にともない、改善していく傾向があると言われています。
そのため、相対的に見ると魚類や甲殻類などは大人が発症する割合が高く、またなかなか治りづらいのが特徴です。だからこそ、自分の症状をきちんと把握し、日々の食生活でケアしていく必要があります。
また、食物アレルギーは、通常食べてから30分~1時間程度で発症する「即時型」の症状が多いですが、大人になるとそれに加え、「食物依存性運動誘発アナフィラキシー」が見られるようになります。食物依存性運動誘発アナフィラキシーとは、特定の食品を食べた後に運動することで発症する食物アレルギーです。
食物アレルギーとひとくちに言っても、かゆみ、じんましん、口腔内のしびれから、咳や腹痛など症状もさまざま。汗疹や風邪や胃腸炎など身近にある他の症状と誤解しやすく見過ごしてしまっている場合もあります。
「特定の食べ物を食べると、1時間以内に体に異変が生じる」「家族にアレルギー体質の人がいる」。心当たりがある場合は、一度、食物アレルギーの検査を受けてみることをおすすめします。
食物アレルギーの検査ってどんなもの?
食物アレルギーの検査は、主に「血液検査」「皮膚検査」「経口負荷検査」の3種類があります。
■血液検査
採血して、血中の「IgE抗体」がどのくらいあるかを調べる検査。IgE抗体とはアレルギーを引き起こす抗体のことで、多ければ多いほど、アレルギーを発症しやすい傾向にあります。血液検査では、小麦、牛乳、エビなど、食品ごとのIgE抗体のスコアを割り出すことができます。
■皮膚検査
アレルギーを引き起こす可能性がある食品の成分を皮膚に貼る(パッチテスト)、または注射する(プリックテスト)ことで、アレルギー反応を見る検査。
■経口負荷検査
アレルギーを引き起こす可能性がある食品を実際に摂取し、アレルギー反応を見る検査。
一般的に、どこの病院でも受けやすく、間口が広いのが血液検査。アレルギーを引き起こしやすい約80種類の食品において、IgE抗体のスコアを調べられます。
ただし、気をつけたいのが、IgE抗体のスコアが高くても、必ずしもアレルギーを発症するわけではないということ。逆に言えば、スコアが低くてもその食品でアレルギーを引き起こす可能性もあり、正確な判断のためには、皮膚検査や経口負荷検査を受ける必要があります。
食物アレルギーを防ぐには、○○を清潔に保つこと!
食物アレルギーにならないようにするためには、日頃からどんなことを心がけるべきなのでしょうか。そのヒントとして、食物アレルギーの「二重抗原曝露仮説」という考察があります。
この説が唱えられるようになったのは、海外のある家族の症例がきっかけでした。その家族には、皮膚に炎症を持った赤ちゃんがおり、同時にピーナッツの食物アレルギーも発症していました。ピーナッツを頻繁に食べる家庭だったので、ピーナッツの物質が炎症している皮膚から侵入し、アレルギーになったものと考えられています。
ところが、同じようにピーナッツを習慣的に食べていた他の家族は、ピーナッツの食物アレルギーがありませんでした。
この症例でわかったのは、幼い頃から適切な量とタイミングで摂取された食物は、アレルギーになりにくいということ。さらに、炎症などがある皮膚から食品の物質が侵入すると、アレルギーを引き起こしやすいということです。
この「二重抗原曝露仮説」は、今は食物アレルギーの主流の考え方になっていて、食物アレルギーを引き起こさないようにするためには、皮膚を清潔に保っておくことがひとつの有効な手段として挙げられます。
また、バランスよくさまざまな食品を摂取することも、腸内免疫を作るうえで大切だと考えられます。少量でアナフィラキシーショックを起こす場合は、もちろん避けるべきですが、卵がたくさん入っている食べ物では反応するが、少量なら大丈夫という場合に、まったく与えないというのは得策ではありません。また、免疫機能を整えておくためには、規則正しい生活リズムや良質な睡眠も大切です。
大人になって発症する食物アレルギーは、厄介な半面、自分の注意や心がけで大きなリスクを予防することもできます。正しい知識と対策のもと、食物アレルギーと向き合うようにしましょう。
食品アレルギーと上手に付き合うためには意識を向けることが重要
個人差にもよりますが食べすぎるとダメ、食べなさすぎても腸内免疫が育たない可能性があるなど、食物アレルギーを確実に防ぐことはまだまだ研究段階と言えそうです。免疫力を高める生活をしながら、まずは検査をし、しっかりと意識を向けましょう。
自分の状態を把握していなければ、外食や自宅ではないところで食事をする機会にその食品を断りづらくなったり、うっかり食べてしまうことも考えられますし、日々購入する食品にもどんな成分が使われているかを知ることは重要です。
主に子どもの食物アレルギーを対象としていますが、例えばハウス食品では、「特定原材料7品目不使用シリーズ」として、小麦、乳、卵、ピーナッツ(落花生)、そば、えび、かにといった、アレルギーを引き起こしやすいとされる7品目を使わずに作った商品を販売しています。
その他にも、購入する原材料にはすべて「規格書」を設け、原材料以外の製造工程でのアレルゲンの管理も行っています。商品のアレルギー情報はホームページで検索できるため、気になる食材があった場合はご自身で調べることが可能です。
子どものうちはもちろん、大人になってから発症することもある食物アレルギー。特定の治療法が確立されていないからこそ、きちんと知ることが、おいしい食事をして健康に過ごすことへつながるのではないでしょうか。
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執筆者プロフィール
清益 功浩(きよます たかひろ)
小児科医・アレルギー専門医。京都大学医学部卒業後、日本赤十字社和歌山医療センター、京都医療センターなどを経て、大阪府済生会中津病院小児科・アレルギー科で診療に従事。論文・学会報告多数。診察室外で多くの方に正確な医療情報を届けたいと、インターネットやテレビ、書籍などでも数多くの情報発信を行っている。
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