甘い物が好きだったり、出汁のきいた物が好きだったり、人それぞれ異なる「味覚」。「五味」と呼ばれる基本的な味を感じる味覚は生まれつき決まっていて個性がありますが、味覚形成に大きな影響を及ぼしているのが、「小さい頃の食生活」なのです。味覚は生まれつき決まってしまうものではなく、学習によって幅を広げられるもの。今回は、子どもの味覚を育てる方法についてご紹介します。
好きは「学習」によるもの
大人になると自然とさまざまな味が好きになるかというと、実はそうではありません。美味しさを感じる感覚は、学習によって「育てる」もの。例えば、子どもの頃に苦手だったピーマンやししとうなどの苦味が、大人になったら美味しく感じられるようになった……。これは幼少期から苦手でも少しずつ食べてきた結果、味覚の幅が広がって美味しいと思えるものが増えたためです。
つまり、子どもの味覚を育てるためには、毎日の食事を管理する親や周囲の人のサポートが必須。子どもの豊かな人生のために、大人ができる味覚の育て方を知っておきましょう!
子どもはいつから味を感じるようになる?
私たちが感じる基本的な味は、甘味・塩味・酸味・苦味・うま味の五味で、この他に脂肪の味も舌で感じることができます。そしてこれらは、生後すぐから識別することが可能です(塩味は生後3ヶ月くらい〜)。
味覚は生まれた時が最も敏感でシンプルにできており、甘味・塩味・うま味といった生きるために必要な味を「美味しい」と感じ、体に危険を及ぼしかねない酸味や苦味を「まずい」と感じるようにできています。
さまざまな食材を食べさせてあげること
人間を含む雑食性の動物は何でも食べるため、「新奇恐怖」という本能を持っています。「新奇恐怖」とは、「これは食べても大丈夫かな?」と新しいものを警戒する行動のこと。特に小さい頃はその本能を使い、美味しいかどうかよりも、本能的に安全かどうかをチェックしているので、必ずしも味が苦手なわけではありません。「苦手そうだからもう食べさせないでおこう」と諦める必要はないのです。脳に味をインプットさせることが大事なので、口から出してしまってもOK。慣れるまで繰り返し食卓に出してあげましょう。
食感や形状、硬さにもバリエーションをもたせること
味のインプットも大事ですが、味覚を育てるためには味だけでなく食感や形状、硬さにもバリエーションをもたせることもポイント。なぜなら、美味しく食べるためには、味覚だけでなく嗅覚や視覚といった五感を総動員して味わうことが必要だからです。特に離乳期くらいは好き嫌いが始まる前の味覚発達における黄金期。味覚の幅を広げるチャンスです!
薄味にして旬のものを取り入れる
大人と同じものを食べさせてOKになった時に気を付けたいのが塩分濃度。塩分の多いものを食べ続けると舌の感覚が鈍り、五味を意識できなくなるので、薄味を心掛けるようにしましょう。
また、旬のものを取り入れるのもおすすめ。旬の食材は複合的な味を持っているので、一度に苦味や塩味、甘味と複数の味を体験することができます。
楽しい食事で苦手なものに慣れさせること
さまざまな味を受け入れていくなかで好みに序列ができていきます。好き嫌いがはじまって食べてくれなくなった時に大事になってくるのが、食事の環境。実は、大人になるにつれて、味覚から感じる情報だけではなく、心理状態も味に大きな影響を与えるようになることが分かっています。そのため、好き嫌いなく食べてもらうためには、楽しんで食べる環境作りが重要になってくるのです。例えば、苦手なものが食べられたら褒める、苦手な食材はピックで刺したり可愛い器に入れたりしてテンションを上げてあげるなどがおすすめの方法です。
やりがちだけれど気を付けなくてはいけないのが、苦手な食べ物を分からないように混ぜ込んで食べさせること。「ピーマン=嫌い」となっている脳の回路に対し、「ピーマン=好き、楽しかった」という別の回路を作ってあげたいので、ピーマンを認識できない状態では意味がありません。混ぜ込む場合は、食べた後に「実はピーマンが入っていたけれど、食べられてスゴイね!」と褒めてあげましょう。食べ物と、楽しい思い出や感情が結びつくことで苦手な食べ物を克服することができます。
こんな時どうする? 子どもの味覚を開花させるお悩み解決法
子どもの味覚を育てるには、大人の食卓への関わり合いが大切。とはいえ、忙しいパパママにとって、大人用の食事とは別に離乳食や幼児食を毎食完璧に作るのは難しいことですよね。そんな多くのパパママが抱えるお悩みを元に、ストレスなく子どもの味覚を育てるためのコツをお伝えします!
Q1.「幅広い食材を食べさせたいけれど、料理のレパートリーを広げるのは大変……」
A1. バラエティに富んだ食事というと、料理へのハードルが上がってしまうかもしれませんが、普段のレシピに少し変化をつけるだけで十分。例えば、煮込み時間を変えて食感に変化をつけたり、肉じゃがの味付けはいつもと同じだけれど、じゃがいもをカボチャに替えて食材を工夫したりとマイナーチェンジで乗り切るのがおすすめです。
Q2.「外食は濃い味のメニューばかり。一切外食はしないほうがよい?」
A2. 時々なら全く問題なし! 外食メニューは塩分濃度の高いメニューが多いですが、スープや汁物は水で薄めたりサラダはドレッシング抜きにしたりするだけでも塩分濃度は下がります。1回で濃い味に慣れてしまうということはないので、外食した翌日のお家ごはんは意識的に薄味にするなど工夫して、外食を上手に取り入れましょう。
Q3.「市販の調味料は料理がラクになる!でも味が濃いから使わないほうがよい?」
A3. 味が濃く、食材本来の味を隠してしまうので、離乳期は避けた方がよいでしょう。離乳期を過ぎたら、少量であれば使っても問題ありません。ただし、マヨネーズは無糖のヨーグルトで薄める、ソースは水や出汁で薄める、ケチャップならカットトマトを入れるなど工夫するとよいでしょう。
マヨネーズやソースといった調味料は、「マスキング調味料」といって食材の味を隠してしまいますが、その特性を逆手に取って、子どもの苦手な食材と組み合わせると食べやすくなるので、裏技として覚えておくと役立ちます。
色々な味を楽しめることは、食生活が充実するということ。充実した食生活は、健康に繋がり、ひいては人生を豊かにすることにも繋がります。食事を通して、子どもの健康で明るい未来作りをサポートしていきましょう!
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執筆者プロフィール
とけいじ 千絵(とけいじ ちえ)
「審食美眼(=食に対する審美眼)を磨き、彩りある食生活を」をモットーに、『審食美眼塾』を主宰するフードアナリスト。企業の商品開発・飲食店のコンサル業務の経験を経て「味覚」に特化した食育に取り組む。現在はフードアナリスト、講師、フードライターとしてメディア等で活躍中。著作「0~5歳 子どもの味覚の育て方」 (日東書院本社/2016年)、「子どもの頭がよくなる食事」(日経BP社/2018年)
プロフィール
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