食品によって栄養の「吸収率」が違うという話を聞くことがありますね。たとえば「カルシウムを600mg摂りましょう」と言われますが、この量を摂れば体は健康を維持できるのでしょうか? それとも、吸収した量が600mgになるように摂取する必要があるのでしょうか? ほかの栄養素はどうなのでしょうか?
「吸収率」とはそもそも何か
人間は、食べ物に含まれた栄養素を体に取り込んで体を作ったり活動のエネルギーを作ったりしていますが、食べ物が消化されて吸収される間にロスがあるため食べ物から摂った栄養素のすべてを体に取り込んでいるわけではありません。
食事から摂取した量を100%としたときに、きちんと吸収される割合を「吸収率」といいます。
同じ「鉄」でもこんなに違う吸収率
同じ栄養素であっても、実は食品ごとに吸収率に大きな差があることがあります。
例えば「鉄」。食品中には「鉄」は2種類の形で存在しています。「ヘム鉄」と「非ヘム鉄」です。ヘム鉄は動物性食品に多く含まれていて、非ヘム鉄は植物性食品に多く含まれています。そして、非ヘム鉄よりもヘム鉄のほうが吸収率が高く、その差は5~6倍(「ヘム鉄」の吸収率は10~20%、「非ヘム鉄」は2~5%)といわれています。
だから、効率的に鉄を吸収するには、鉄を多く含む動物性食品であるレバーが植物性食品であるほうれん草よりもおすすめと言われるのですね。
また、冒頭でご紹介したカルシウムも、摂取した量のすべてが吸収されるわけではありません。まず、カルシウムも鉄と同じように食品によって吸収率が違います。カルシウムの吸収率がよいものとしては、牛乳や乳製品が知られていますね。
さらに加齢に伴って吸収率が下がったり(妊娠中は上がります)、ビタミンDなど他の栄養素に左右されたり、その時々の身体の条件(性・年齢、妊娠期、健康状態など)で変わります(カルシウムに限らずですが、身体の条件で栄養素の吸収率は変わります)。
「食事摂取基準」は吸収率も加味したもの
よく「女性は鉄を1日10.5mg摂取しましょう」「カルシウムを1日600mg摂取しましょう」などと言われるのは、健康な日本人の体格を考慮して厚生労働省から5年に1度発行される「日本人の食事摂取基準」に沿っています。
現在の最新版は「日本人の食事摂取基準 2020年」 ですが、この中で示されている量は、ちゃんと吸収率も加味した値ですので、推奨されている量が食事に含まれていれば大丈夫ということになります。
さらに知っておきたい吸収に関する知識
ただし、吸収率は常に一定かというとそうではありません。まず、一緒に食べるものによって栄養素の吸収を助けたり阻害したりしてしまうことがあります。
糖尿病や肥満の人は医師や管理栄養士などから何度も聞かされている話かもしれませんが、食物繊維の多い食品を食べると糖や脂肪の吸収が抑えられるため、血糖値が改善されたり肥満が解消される手助けになることもよく知られています。つまり、ベジファーストは栄養学的にも理にかなっているんですね。
また、ビタミンAは油に溶ける性質のため、油と一緒に食べることで吸収率が上がることも知られていますね。そうは言っても、ビタミンAの吸収をよくするために「揚げ物」や「炒め物」を多く食べていれば、それは肥満の原因になりますし、食べ方には一長一短があります。
同じ人でも、そのときの体調や摂取した量などによっても吸収率は大きく変わってきます。 たとえば、胃腸の状態や腸内環境が悪くなっていると、どんなに栄養を取ってもうまく吸収されないことがあります。ほかにも、胃酸過多や消化酵素の異常、病気やストレスなどにも左右されるのです。
また、体内で飽和したら、それ以上は吸収されずに排出されるものもあります。ビタミンB群やビタミンCなどの水溶性ビタミンは体内で飽和状態になると、それ以上は吸収されずに排出されます。ため込むことができないから、こまめに摂る必要があるんですね。
いろいろな食べ物をさまざまな調理法でバランスよく食べることが栄養素の吸収率アップにも大切なことだと言えます。
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執筆者プロフィール
平井 千里(ひらい ちさと)
管理栄養士。女子栄養大学大学院(博士課程)修了。名古屋女子大学 助手、一宮女子短期大学 専任講師を経て大学院へ進学。「メタボリックシンドロームと遺伝子多型」について研究。博士課程終了後、介護療養型病院を経て、現職では病院栄養士業務全般と糖尿病患者の栄養相談を行う傍ら、メタボリックシンドロームの対処方法を発信。
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