カルシウムが身体にもたらす影響を聞いたことがある人もいらっしゃるのでは? それって本当?カルシウムは、そもそもどんな役割を果たすものなのか、どうやって摂ればよいのか、不足したら/摂りすぎたらどうなるのか……といった疑問にお答えします。
カルシウムとは、そもそもどんなもの?
カルシウムというと、「骨」を瞬時に思い浮かべる人も多いのではないかと思います。その想像をした人は大正解! カルシウムの99%は骨や歯などの材料になります。それ以外の1%に筋肉の収縮や神経を安定させるなど大切な役割があり、体内でのカルシウムの活躍には目を見張るものがあります。
日本人のカルシウム必要摂取量は以下の表のとおりですが、実際にどれくらい摂れているかというと、平成29年度の国民健康・栄養調査では全体平均で514mgとの結果。もう少しがんばって摂取したいところです。
「カルシウム不足」がひどくなると、骨粗しょう症のほかに手足のしびれ、けいれんを起こしたり、死に至ることもある心拍リズムの異常などを起こす場合があります。これらの症状は大きな健康問題を抱えている人や何らかの疾患で治療を受けている人に起こることが多いようです。
逆に、カルシウムを摂りすぎると便秘になることが知られています。さらに、カルシウムの摂りすぎで前立腺がんや心疾患のリスクが上がるといわれていますが、これはサプリメントを使ってかなり大量に摂取した場合に起こるもので、一般の食品を食べて摂取しているのであれば摂りすぎの心配はありません。
カルシウムの疑問にお答え
①カルシウムをたくさん摂ると身長が伸びる?
答えは「No」です。
残念ながら、カルシウムと成長の密接な関係を示す有望なデータはありません。カルシウムに骨を強くする作用はありますが、成長を促進する作用はないと「日本小児内分泌学会」の見解が出ています。
身長を伸ばすには、栄養+運動、睡眠の方が大切です。運動で筋肉をしっかりほぐし、主食、主菜、副菜がそろった栄養バランスの良い食事を摂りましょう。
もちろんカルシウムが不足しないように、しっかり食事から摂取しましょう。その上で、睡眠をしっかりとり成長ホルモンを分泌させることも、成長のために大切です。
②カルシウムを摂らないとイライラの原因になる?
答えは「No」です。
「カルシウムが不足するとイライラして怒りっぽくなる」というのは俗説です。
カルシウムには、心拍を規則正しく保つ、筋肉の収縮などに必要であるといった役割もあり、そこから、イライラなどの不調が起こる原因としてカルシウム不足があるのでは……という考えが生まれたのかもしれません。
でも実際には、食事で摂取するカルシウムが不足していても、骨や歯から代謝に必要なカルシウムが補充されるので、血液中のカルシウム量は常にほぼ一定に保たれており、カルシウムの摂取不足でイライラするというのは、栄養学的には考えにくいことです。
現実にはほとんどの日本人がカルシウム摂取不足という状況なので、イライラしている人についても「カルシウムが足りていないのでは?」という指摘が本当に当てはまることもあり、この噂がまことしやかにささやかれるようになったのかもしれません。
③カルシウムが不足すると骨が弱くなる?
答えは「YES」です。大腿骨骨折頻度とカルシウムの摂取量に相関関係があるというデータがあります。
先ほどもお伝えした通り、カルシウムは不足したからといってすぐに欠乏症などの症状が出るわけではなく、骨や歯から必要なカルシウムが体内に補充されていきます。そのため、カルシウムが不足した骨はもろくなってしまいます。
ちなみに骨の強さ=骨密度が増えるのは思春期頃までと言われています。育児中の方であれば、お子さんが小さいうちからカルシウムが不足しないように注意したいところです。
なお、大人になってからは「増やす」ことは難しくても「減らさない」ことはできると言われています。今ある骨を維持することを目指しましょう。
骨密度を増やす、もしくは維持するためにはカルシウムだけあれば大丈夫という訳ではありません。骨は、負荷がかかるほど骨を作る細胞が活発になるため、適度な運動を心がけましょう。また、カルシウムの吸収を高めるビタミンD、骨の形成に関わるビタミンKもあわせて摂るようにしましょう。
カルシウム摂取のコツは?
カルシウム摂取にはいくつかのコツがあります。
①カルシウムは夜摂る
「毎朝牛乳を飲んでいる」という人も多いかもしれませんが、実は骨を作るのに必要な成長ホルモンの分泌は夜間に多いため、カルシウムも成長ホルモンの分泌が盛んになる夜、寝る前や夕食時などに摂取する方が理想的です。
②ビタミンDも十分に摂る
カルシウムを単独で摂取するよりもビタミンDを十分に摂取することで吸収が高まります。
ビタミンDは食品で摂取するだけでなく、日光浴でも増やすことができます。夏なら日陰で30分、冬は手足に1時間程度、日光に当たるだけで十分な効果が得られるといわれています。ビタミンDを多く含む食品としては、魚介類やきくらげなどが知られています。
③レモンなどクエン酸と一緒に摂る
カルシウムをクエン酸溶液に溶かすと吸収しやすくなるという実験もあり、レモン果汁などのクエン酸とカルシウムを一緒に摂ると、小腸からのカルシウム吸収につながることがわかっています。
カルシウムは何から摂ればいいの?
不足しがちなカルシウムを補うにはどうすればよいでしょうか? 最も手軽で簡単なのは、牛乳を飲むことです。「日本食品標準成分表(2015年版)」を見ると牛乳100gあたり110mgというのが正確な数字ですが、おおよそ牛乳1mlあたりカルシウム1mgと換算すれば、小さめのコップ1杯(150ml)程度を飲むだけでも、150mg程度の摂取は可能です。
乳製品が苦手な場合には、小魚、海藻、大豆および大豆製品、緑黄色野菜などの食品に多く含まれています。
普段の食事でカルシウムの多い食品を摂りつつ、ひなたぼっこがてらお散歩を習慣にするというのがカルシウムの吸収を上げるためには効果的と言えそうです。
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執筆者プロフィール
平井 千里(ひらい ちさと)
管理栄養士。女子栄養大学大学院(博士課程)修了。名古屋女子大学 助手、一宮女子短期大学 専任講師を経て大学院へ進学。「メタボリックシンドロームと遺伝子多型」について研究。博士課程終了後、介護療養型病院を経て、現職では病院栄養士業務全般と糖尿病患者の栄養相談を行う傍ら、メタボリックシンドロームの対処方法を発信。
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