食べたものの消化吸収だけではなく、人間の免疫を司っていることなども解明され、近年注目を集めている「腸」。「第二の脳」とも言われる腸の基礎知識や、免疫との関わりなどについて、Q&A形式でご紹介しましょう。
【Q1】腸の役割と「腸内細菌」について教えてください。
小腸は、胃や十二指腸で消化された食べ物をさらに消化分解し、栄養素の状態で吸収します。大腸は、水分やミネラルを吸収します。小腸は、栄養を効率よく吸収するために、ヒダ状になっています。大腸では便が作られ、溜められています。小腸は、約6mの長さがあって、小腸の内側を広げるとテニスコート1面の4分の1の面積になると言われています。大腸の長さは約1.5mです。
そんな人の腸内には数百兆個もの細菌(腸内細菌)が存在しています。腸内細菌は出生後、様々な環境を経て、長期間にわたり形成されます。その中にはからだや腸によい働きをするビフィズス菌や乳酸菌などの「善玉菌」と、毒素産生型バクテロイデスと呼ばれる菌など有害な働きをする「悪玉菌」、良い作用や悪い作用を併せ持つ「日和見菌」といった微生物があって、つねにせめぎ合いながら共生しています。
腸内細菌のバランスや腸内細菌の種類・割合は人によって異なり、食生活や生活習慣、年齢などによっても大きく変化し、人の健康を大きく左右しています。腸内細菌を顕微鏡で観察すると、個々に生息する様相が花畑([英]flora)のようであったことから、「腸内フローラ」と呼ばれています。
【Q2】近年「腸が免疫を司っている」という話を聞くようになりましたが、消化・吸収以外の機能について教えてください。
細菌やウイルスなどの病原体に直接さらされる腸には、それと戦うための「免疫細胞」が多く存在し、からだ全体の50%以上の免疫細胞が集中していると言われています。
小腸内では、「M細胞」という細胞が病原体の成分を免疫細胞の集まっている「パイエル板」と呼ばれる組織へ誘導し、樹状細胞、リンパ球、抗体を産生する形質細胞などによって処理しています。
また、腸内細菌から作られる物質にも注目が集まっています。酢酸や酪酸と呼ばれる「短鎖脂肪酸」は、腸内細菌が食物繊維やオリゴ糖を材料に作り、大腸の細胞のエネルギーになるとともに、特に酪酸は動物実験で抗うつ作用があることが言われています。国立精神・神経医療研究センターの功刀先生は、うつ病の患者ではビフィズス菌が少ないことを報告しています。
腸には常に免疫細胞が関与しています。腸内環境によっては、細菌、毒素、食物などの異物が腸管から体内に侵入することで免疫が高まりますが、その免疫の状態が、細菌由来の病原因子や炎症の場で作られる物質「サイトカイン」を介して脳に伝わると、脳内でも免疫が高まってしまうことで、脳への影響が起こることも考えられています。
【Q3】歯周病と腸って関係があるんですか?
人間の口の中では、500種以上の細菌が「フローラ」を形成し、口腔内の健康を保っています。そんな口腔内フローラのバランスが崩れると、虫歯や歯周病などのトラブルが発生します。
歯周病があると大量に歯周病菌を飲み込むことになりますが、歯周病菌の1つであるジンジバリス菌(Porphyromonas gingivalis)が腸に流れ込むと腸内フローラがバランスを崩し、腸のバリア機能が低下、血中に細菌由来の毒素量が増加すると報告されています。
また、口腔内フローラが崩れ歯周病が引き起こされると、歯肉や骨の血管を通して細菌由来の病原因子や炎症の場で作られる物質(サイトカイン)が全身に巡ります。その結果として、糖尿病や動脈硬化、狭心症・心筋梗塞・脳梗塞、早産・低体重児出産、骨粗鬆症等の原因になることも報告されています。
【Q4】腸の免疫力が低下する原因について教えてください。また、腸内環境が悪化するとどんな問題が起きるのでしょうか。
ストレスや不安などにより、腸内細菌の数や種類が変化します。また、肉食中心の食生活や飲酒、ストレス、加齢などによって腸内細菌のバランスが崩れると、腸内の腐敗産物などが増加し、腸内環境が悪化します。
腸内環境の悪化は腸を介して発がんや動脈硬化など全身の疾患リスクを増加させます。
【Q5】食事の面から腸のためによいこと、腸の働きを保つために心がけたいことを教えてください。
基本的には、普段から食事に気をつける必要があると言えます。栄養バランスの整った食事をこころがけ、朝・昼・夜の三度の食事をバランスよく食べることが基本です。
発酵食品
乳酸菌、納豆菌、麹菌、酢酸菌、酵母菌などを含む発酵食品は善玉菌や免疫細胞を活性化させる働きが期待できます。ヨーグルトや漬物、納豆、チーズなど発酵食品を継続的に摂りましょう。
食物繊維
悪玉菌が生み出す腐敗産物を便として排出してくれる食物繊維は、日本人にとって不足しがちなので積極的に摂りたいところ。こんにゃく、きくらげ、ごぼう、寒天、わかめ、ひじき、もずく、えごのりなど。
オリゴ糖
ビフィズス菌のエサになり善玉菌を活発にさせるオリゴ糖を含む食材もおすすめ。きな粉、ゴボウ、玉ねぎ、にんにく、豆腐など。
必須アミノ酸を含むタンパク質
からだにとっても免疫細胞にとっても必要な栄養素です。アミノ酸には様々な種類があり、卵、肉、魚、乳製品、大豆などいろいろな種類の食材を組み合わせることが必要です。
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執筆者プロフィール
清益 功浩(きよます たかひろ)
医学博士。日本小児科学会認定専門医、日本アレルギー学会認定専門医・指導医。他にも、メンタルヘルスマネジメント始め、法律、経済、化学などについて多岐に渡る資格を有し、現役医師として多くの方に正確な情報を提供し、診察室以外でも情報発信をおこなっています。
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