作ったカレーを、そのまま室温で置いているご家庭もあるかもしれませんが、一度しっかり煮込んだから大丈夫と過信すべからず!夏はもとより冬でも、一晩寝かせたカレーでは、食中毒が起こりやすくなるリスクがあるのです。
「一晩寝かせたカレー」は、なぜ危ない?
カレーは大量に作ることが多い料理。すぐに全部を食べ切らずに鍋のまま室温で置いておくご家庭も多いかもしれません。しかし、実はそんな「一晩寝かせたカレー」で悲しい食中毒事件が起こりやすくなっていることをご存じでしょうか? なんと、作った時にしっかり加熱していても残ってしまう菌があり、保存している間にそれが増殖してしまうリスクがあるのです。
「食中毒予防の3原則」から抜け落ちる要素が?
まずここで「食中毒予防の3原則」 を見てみましょう。
食中毒予防の3原則は「つけない・ふやさない・やっつける」。カレーを作る際に、ほかの食材や調理する人から料理に「つけない」ように衛生に注意して料理をすることは言わずもがな。カレーをしっかり高温で煮込むことで、菌を「やっつける」こともできています。
ところが「一晩寝かせたカレー」は「ふやさない」の部分が抜け落ちてしまいます。その原因となるのが「ウェルシュ菌」という細菌です。
煮込んでも生き残る!「ウェルシュ菌」とは
ウェルシュ菌は自然界に幅広く生息している細菌で、空気を嫌う性質があるため、カレーやシチューの鍋底のような酸素が少ない環境で増殖します。また、硬い殻を持った「芽胞(がほう)」を作るのですが、この芽胞は通常の状態の菌とは違い高温に強く、100度で数時間加熱しても死なないため、カレーの鍋の中で長時間煮込まれても生き残るのです。
この「芽胞」のままであれば人体に被害を起こすことはなく、増殖もしません。しかし、いったん加熱した後、ウェルシュ菌が好む室温くらいまで鍋の中の温度が下がると、「発芽」して菌が目を覚ますことで急速に増殖を始めます。これが「一晩寝かせたカレー」で食中毒が起こる元凶になるのです。
症状としては、ウェルシュ菌で汚染された料理を食べてから約6~18時間(平均10時間)後に、腹痛、下痢などの腹部症状が起こります。
ウェルシュ菌以外にも、加熱しても死滅しない菌にセレウス菌、ボツリヌス菌があります。調理の際は「加熱したから大丈夫」と過信しないようにして下さい。
カレーの保存方法・加熱方法
カレーに限らず、食中毒予防のためには「料理ができたらすぐ食べる」が鉄則ですが、カレーは大量に煮込んで作り、翌日以降に食べることも多いですよね。
そこで、翌日以降までカレーを保存したい場合は、ウェルシュ菌が繁殖しやすい20~50度程度の温度帯になる室温で長時間放置しないように、できるだけすばやく粗熱を取って、1回で食べ切れる分ずつ厚みの少ない容器などに小分けにし、冷凍保存しましょう(翌日食べるのであれば冷蔵でもOK)。たとえ真冬でも、最近の住宅は暖房などで部屋の温度が下がりきらないこともあり、室温での長時間保存は禁物です。
家庭で調理したカレーの場合、冷凍保存の場合でも1週間以内には食べ切って。冷凍保存したカレーも、必ず食べる直前に鍋に移してかき混ぜながら、しっかり中心部まで再加熱して熱いうちに食べるようにしましょう。予め鍋に牛乳などを温めておいて、そこで溶かすようにして加熱すると焦がさず上手に温められます。
カレーの場合、匂いや色の変化がわかりにくく腐敗に気づかないので、冷凍保存してあっても食べる時には注意して下さいね。
なお、じゃがいも・にんじんなどは冷凍すると、細胞の組織が壊れて「す」が入ったように(中がスカスカに)なってしまい、おいしくなくなってしまいます。じゃがいもやにんじんは冷凍前に取り除くのが一般的ですが、じゃがいもの代わりにかぼちゃを使ったり、じゃがいもやにんじんを入れるのであれば、すりおろしたりマッシュして入れるなど、具材に工夫する方法もあります。
ウェルシュ菌はカレーだけでなく、スープやシチューなどすべての煮込み料理でリスクがあります。調理する時には手洗いをしっかりする、中心部までしっかり加熱する、出来上がった料理はすぐに食べるなど食中毒予防の3原則である「つけない」「ふやさない」「やっつける」をしっかり守っておいしく健康的な食生活を送りましょう。
-
執筆者プロフィール
平井 千里(ひらい ちさと)
管理栄養士。女子栄養大学大学院(博士課程)修了。名古屋女子大学 助手、一宮女子短期大学 専任講師を経て大学院へ進学。「メタボリックシンドロームと遺伝子多型」について研究。博士課程終了後、介護療養型病院を経て、現職では病院栄養士業務全般と糖尿病患者の栄養相談を行う傍ら、メタボリックシンドロームの対処方法を発信。
※本ページの記載内容は記事公開時点の情報に基づいて構成されています。