「よい睡眠」とは、寝床に入ったらすぐ眠れ、起きようと思う時刻までぐっすり眠れ、起きたい時刻に自然に気分よく目が覚め、日中は午後のひと時を除いて眠気がない睡眠のこと。そんなよい睡眠のために、食事の面からできることをご紹介しましょう。
よい睡眠のためにできる食事6選
寝る直前に食事をとると、睡眠のためにも、体調のためにもよくないというのは、皆さんご存じですよね。
基本的に夕食は寝る3時間前までに。それが無理なら、夕方と遅い時刻の2回に分けて食べる「分食」がおすすめです。
どうしても寝る前に小腹がすいた、毎日残業で夕食の暇がない……といった事情がある時は、消化が良い炭水化物などを少量とるとよいでしょう。
それ以外にも「よい睡眠」のために食事の面からできることがあります。ここでいくつかご紹介しましょう。
(1)3食を規則正しく食べる
胃腸の体内時計「腹時計」が正常に働くことで概日リズムが調整されます。
(2)朝食は必ずとる
長い絶食の後、お腹に食べ物が入ると、腹時計も目を覚まします。また、脳の栄養源はブドウ糖だけですが、血液中のブドウ糖の量=血糖値は、朝食前に最低の値となっています。しっかり朝ごはんを食べて、充実した1日のスタートを切りましょう。
ごはん・パンなどの炭水化物(糖質)に、卵や肉、魚、乳製品、大豆製品などのたんぱく質もあわせて摂るとよいでしょう。アミノ酸のトリプトファンを多くとることで、目覚めスッキリ、夜はグッスリ眠れます。
朝食はきちんと食べることが基本ですが、これまで食べてこなかった人は、トマトジュースなど液体から始めてもよいでしょう。将来的にはしっかり食べる方向に移行した方がよいですが、難しい場合は簡単な食事のままでも構いません。
(3)カフェインは、眠る4時間前までに
興奮作用があるカフェインは、若い人で1~2時間、高齢者では4~5時間以上、体の中に残ります。カフェインに弱い体質の人は、夕食後に飲むものをノンカフェインの麦茶やハーブティーに替えましょう。チョコレートやココア、栄養ドリンクの一部にもカフェインが含まれているので、要注意です。
(4)昼寝の前に、カフェインを摂る
カフェインの刺激作用は、体に吸収されてから30分たつと発揮されます。ですから、昼寝をする場合は、スッキリ目覚めるために、眠る前にカフェインを摂っておくことをおすすめします。起きた後のけだるい感じも、これで解消です。
(5)晩酌は、日本酒1合、ビール(500mL)1缶、ワインはグラス2杯まで
アルコールは、脳の覚醒中枢を麻痺させることで、催眠作用を発揮します。少量のアルコールなら、寝つきがよくなり眠りも深くなりますが、途中で目覚めやすくもなりますので、ほどほどがよいでしょう。
(6)眠る前はグリシン、朝はトリプトファンを多く含む食材がお勧め。
エビ・ホタテ・イカ・カニ・カジキマグロなどの魚介類に多く含まれるアミノ酸「グリシン」は、脳の体内時計に作用して、睡眠のリズムをうまく調整すると考えられています。睡眠に問題がある人に、就寝30分前に3グラムのグリシンを摂ってもらったところ、朝はすっきりと起き、日中の作業効率も良くなったという研究があります。
牛乳や乳製品、豆・豆製品、バナナ、アボカド、肉類、スジコ、タラコなどに比較的多く含まれる必須アミノ酸のひとつ「トリプトファン」は、脳内で神経の信号を伝える物質である「セロトニン」になり、夜にはそれが「メラトニン」になります。人間の体はトリプトファンを作れないので、食事からとる必要がありますが、トリプトファンをきちんと摂ると、夜はぐっすり眠ることができ、朝はすっきり目覚められることが分かっています。
睡眠と成長ホルモンについて
もう一つ、睡眠と「成長ホルモン」の関係についてもご紹介しましょう。
ご存じの方も多いかと思いますが、「成長ホルモン」は子どもだけのものではありません。分泌量は減るものの、大人にとっても肌をはじめとする全身の細胞のメンテナンスや新陳代謝に必要なもので、特に美肌を気にする女性なら、意識している方も多いのではないでしょうか。
成長ホルモンは、深い睡眠の時にたくさんに分泌されます。以前は「22時~2時が美肌のゴールデンタイム」と言われていましたが、実際は特に寝ついてからの3時間に、成長ホルモンが分泌される「深い睡眠」が集中的に現れるので、この時間帯が本当の「美肌のゴールデンタイム」といえます。
つまり、寝ついてからの3時間に良い睡眠をとらなければ、成長ホルモンは十分に分泌されません。 食事については上で挙げた項目を参考に。また、眠る1時間前はスマートフォンやパソコンのディスプレイを見ない(光が目を覚まし、メラトニンの分泌を抑えます)、タバコは眠る1時間前にはやめる(ニコチンが交感神経を刺激してアドレナリンの分泌を促します)、眠る時刻の1~2時間前に入浴する(体温が上がった後、冷めるときに眠気が強くなります)、眠くなってから寝床に就くなど、快眠につながる過ごし方を心がけましょう。
なお、寝ついてからの3時間にグッスリ眠れたとしても、もちろん全体的に見れば3時間睡眠だけでは不十分ですので、自分にとって必要な睡眠時間はしっかり確保しましょう。
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執筆者プロフィール
坪田 聡(つぼた さとる)
日本医師会、日本睡眠学会、日本コーチ協会所属。日本を睡眠先進国にするため、正しい快眠習慣の普及に努める専門医。ビジネス・コーチと医師という2つの仕事を活かし、行動計画と医学・生理学の両面から、睡眠の質の向上に役立つ情報を発信しています。
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