毎日、仕事や家事、育児などに追われ忙しく、週末にゆっくり休んでも疲れがとれないという人も多いのではないでしょうか。疲れには肉体的疲労や精神的疲労などがありますが、原因は生活習慣やストレスなどさまざまです。疲れをとるためには、質の良い睡眠や休息、入浴などが不可欠ですが、「重大な病気の場合を除き、集中力の低下やだるさを感じる場合の疲労は、食生活のバランスが悪い時に起こりやすくなるんです」と管理栄養士の吉村雅子さんは話します。疲れをためないようにする食事や習慣について吉村さんに詳しくお話をうかがいました。
栄養バランスが乱れると疲れの原因に
私たちは生きていくために、食品からさまざまな栄養素をとる必要があります。炭水化物や脂質は主に活動するためのエネルギー源に、タンパク質は主に体をつくるもとになります。ビタミンやミネラルはそのエネルギー代謝に関わったり、ほかの栄養素がうまく働くように助けたりと、主に体の機能調節をしています。これらは5大栄養素と呼ばれ、人の身体の中でとても大切な働きをしています。
吉村さんは、不規則な食生活が続き、身体に必要な栄養のバランスが乱れると、エネルギーの代謝が滞り、疲れがたまりやすくなるといいます。「例えば、炭水化物(糖質)はしっかりとるけれど、ビタミンやミネラルが不足するような偏った食生活を送っていると、糖質がうまく代謝されず、疲労物質である乳酸が蓄積し、身体がだるいなどの疲労感を生み出します。反対に、ダイエットで糖質制限を行いタンパク質中心の食生活にすると、脳の栄養であるブドウ糖が不足するため、頭がすっきりしないなどの不調から精神疲労にも繋がりやすくなるのです。栄養素は単独で働いているのではなく、それぞれが互いに関係し助け合いその力を発揮するため、どの栄養素が欠けてもうまく回りません。そのために、栄養バランスが良い食事を取ることが大切なのです。」
栄養バランスの良い食事をとるコツと食習慣
では、栄養バランスの良い食事とはどのようなものをさすのでしょうか?吉村さんは「定食スタイル」の食事をとるようにとアドバイスします。「栄養バランスの良い食事とは5大栄養素を過不足なくとることですが、あまり難しく考えることありません。いわゆる定食スタイルであれば、主食(ごはんなど)で炭水化物がとれます。メインの主菜(肉や魚類、卵など)ではタンパク質や脂質、副菜・汁物(野菜やきのこ、海藻など)でビタミンやミネラルがとれ、5大栄養素をバランスよくとることができるのです。食生活が乱れたり疲れたと感じたら、いつもの食事を振り返ってみてください。」ランチや夕食に丼ぶりや麺類だけを単品で食べている場合は、副菜や汁物など足りないものを追加するよう心がけるか、しばらくは定食スタイルの食事を意識して、バランスを整えることから始めましょう。
食生活が不規則になる場合、炭水化物やタンパク質は十分にとれていても、ビタミンやミネラルが不足しているケースが多いといいます。そういう時は間食にナッツやおやつ用昆布を食べたり、飲み物に工夫をしたりするとよいそうです。「お水にレモンを丸ごと搾って飲んだり、ニンジンとリンゴなど好きな果物や野菜をジュースにして飲めば、自宅でも手軽にビタミン補給ができます。私は市販のトマトジュース(無塩)に豆乳を足して、お酢を少々入れて飲んでいます。トマトにはビタミン、ミネラルがバランスよく含まれている上に、疲れをとるクエン酸や抗酸化作用のあるリコピンが豊富です。女性に優しい豆乳のイソフラボンも摂取できるのでおすすめです。温めてオリーブオイルをプラスするだけでスープとしてもおいしくいただけます。疲れを感じたら意識してビタミン、ミネラルを摂取するようにしたいですね。」
疲れを感じるときは内臓も同様に疲れているため、食欲が低下することもあります。そんなときは、胃腸に負担をかけない消化・吸収のよい食事をとりましょう。食事をとるときはよく噛まないで食べると胃に負担がかかるので、しっかり噛んでゆっくり食べることも大切なポイントだといいます。また、胃を休めるためには、就寝前の約3時間は食事をしない方がいいのだそうです。睡眠中は胃がほとんど働かないため、消化しきれなかった食物が残ると翌朝に胃もたれが起こってしまうことも。疲れがとれないときは、毎日の食習慣も気をつけた方がいいようです。
自宅で手軽に作れる疲労回復レシピ
疲労回復におすすめという「豚肉のソテー 玉ねぎと金柑のビネガーソース」
※吉村さん提供写真
最後に、吉村さんにおすすめのレシピを教えていただきました。「疲労回復に欠かせない栄養素には、ビタミンB1やクエン酸などがあります。今回は疲労物質を分解するビタミンB1を多く含む食品の中から、豚肉を使ったレシピをご紹介します。金柑の代わりに八朔や夏みかん、オレンジなど季節に合わせた柑橘類でも代用できますよ。」
「豚肉のソテー 玉ねぎと金柑のビネガーソース」
<材料>(2人分)
- ・豚フィレ肉 120g
- ・塩・こしょう 適量
- ・植物油 大さじ1
- ・玉ねぎ 1/2個
- ・にんにく 1/2片
- ・金柑 3個 (八朔又は甘夏、オレンジなどの柑橘類 1個)
- ・りんご酢 大さじ1
- ・粒マスタード 小さじ1/2
- ・きび砂糖 小さじ2
- ・醤油 小さじ1
- ・ベビーリーフ 適量
- ・糸唐辛子 適量
<作り方>
- 豚フィレ肉は食べやすい大きさに切り、塩・胡椒をする。
- 玉ねぎは薄切りに、にんにくはみじん切りにする。金柑は4つ割りにして種を取り出す。
- フライパンに植物油を入れて中火で熱し、1.の肉を両面焼いて皿に取り出す。
- リンゴ酢、粒マスタード、きび砂糖、醤油を混ぜあわせる。
- 3.のフライパンに玉ねぎとにんにく、金柑(皮をむいた八朔または甘夏)を加えて炒め、 玉ねぎが半透明になったら4.の調味液を加え、ふつふつしてきたら火を止める。
- 焼いた豚肉の上に5.とベビーリーフをのせ、糸唐辛子をかける。
「ビタミンB1は玉ねぎやにんにくに含まれるアリシンと一緒にとると吸収率が上がります。酢や柑橘類などに含まれるクエン酸やリンゴ酸も代謝を促進する効果があり、疲労回復におすすめです。唐辛子のカプサイシンには疲労やストレスに対抗するエンドルフィンという脳内ホルモンの分泌を高める効果も。疲れを感じたときは、ほかの料理にもこれらの食材を取り入れてみてください。」
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■プロフィール
吉村雅子(Atelier Cerfeuil 代表/料理家・管理栄養士・京都 食コーディネーター)
京都市生まれ、京都市在住。同志社女子大学家政学部食物学科管理栄養士専攻卒。大学で栄養学を学んだ後、料理や演出など、あらゆる角度から食を追求し続け今に至る。企業の広報誌や web、雑誌などへのレシピ提供をはじめ、商品開発やメニュー開発、料理教室、食育活動などを行っている。五感に働きかける、身体と心に優しく響く料理やお菓子を提案。また、フードコーディネートを通じて心豊かに暮らすための食生活を提案している。
「毎日の食、そしてその環境も含めた食生活によって人は作られています。食の大切さと楽しみ方を伝えたい。食によって人々がおいしく、楽しく、健康で、幸せになれる世の中を作っていきたいと思っています」
Atelier Cerfeuil